向田邦子新春シリーズ再放送(TBSチャンネル2)

1992~2000年に初回放送された『華燭』、『家族の肖像』、『いとこ同志』、『風を聴く日』、『響子』、『空の羊』、『小鳥のくる日』、『あ・うん』を視聴。

演出は全作、久世光彦。時代設定はすべて昭和十年代なかば。脚本は『響子』と『あ・うん』が筒井ともみ、それ以外はすべて金子成人。『響子』は原作原案が向田+松山巌(『闇のなかの石』)で、他の回とはかなり毛色が違う。正月の9時台に似つかわしくない生臭い演出もあり、秀作ではあるが別枠のほうが納得できるテイストである。これ以外は、主人公の家の主は生前あるいは現在、中級官僚とおぼしき役人、研究者など。当時の日本にあってはかなり上品な部類に入る、山の手の中流家庭を舞台としている。『あ・うん』は他の映像化作品との差別化をはかったのか、いささか悪乗りのおふざけ芝居が鼻についた。『響子』と『あ・うん』以外は懐かしさや明るさを感じさせる小林亜星の音楽で幕を開け、エンディングでは正月らしい小物をあしらった華やいだ映像にクレジットをかぶせる。

レギュラー陣が田中裕子、小林薫加藤治子。三人とも目をむいたり声を荒げたりしなくとも山場を作れる役者で、こんなにうまい人が人気を集めて民放で主演を張っていたなんて、ドラマファンにとって幸福な時代もあったものだ。ヒロインは毎度田中裕子。妙に潔癖に身構えた未亡人、母と妹を何よりも大事にする独身職業婦人、ふつふつと沸き起こる欲望に身を任せる主婦……予想より役柄の幅が広かった。要所要所で、あまり表情を変えなくともひしひしと伝わるものがある。その演技のレベルはイザベル・ユペール並みと言っても過言ではない……と思う。小林薫は世事に疎い学者も、ヤクザなにおいをプンプンさせた石工職人も、ひょうひょうとした落語家も、なんでもござれ。この二人が親子になったり、いとこになったり、不倫相手になったり、全作異なるケミストリーで魅せてくれる。加藤治子は基本的に、しとやかながら胸の奥にわだかまりを抱えた母親役。この手の奥様の陰にこもった怖さを表現できる女優が今いるだろうか? 『響子』では珍しく石屋の女将さんで、荒くれ男たちの上に立つ貫禄を示した。

一番楽しめたのは『空の羊』(1997年)。酔った叔父が酒場で知り合った噺家を連れてくることから、女所帯に騒動が持ち上がる。自分で自分を縛って生きているようなヒロイン(三姉妹の長女で未亡人)が、彼と出会ったことで変わってゆく。小林薫と田中裕子のかけあいは安定のおもしろさ。吃音を直すために西条八十の詩を朗読する三女役の田畑智子も魅力的だ。西島秀俊が作家志望のろくでなしを演じるのも目を惹いた(なぜオープニングクレジットで名前が出ない?)。次女(戸田菜穂)と自由恋愛を謳歌しており、他にも複数の女と関係している。たがいに束縛しない約束だったから、次女が妊娠しようと流産しようと知らん顔というクズっぷりで、この男優は若いころからこういう役が嵌っていたのだなと妙に感心した。このころの戸田菜穂は、きれいでいいお嬢さんに見えるものの、女優としてはこなれていない印象。他の作品と同じく、田中裕子と小林薫はラストで別れ別れとなる。寂しさと爽やかさがあいまったいいエンディングだった。