『鬼平犯科帳 THE FINAL』

京極備前守「いかな人助けでも、悪をもってしては台なしではないか」
長谷川平蔵「ごもっともなる仰せ。しかしながら、貧しき者の理屈はまた別。命をつなぐひと椀の粥に、善悪の区別がござりましょうや。人というものは、良いことをしながら悪いことをする、善と悪とがないまぜになった生き物でござります。人の世も、尋常一様にはまいりません。かように、是非弁別の分かちがたきことは、見て見ぬふりをするのも寛容かと」

前編『五年目の客』の冒頭あたりでは『大岡越前』かよ!と思うくらい、少々説明過多な台詞が気になったが、だんだんとなじんだ。上記の『雲竜剣』ラストの台詞は、『鬼平』総括にふさわしい内容であった。脚本担当は、前半が金子成人、後半が田村恵。

中村吉右衛門は歩き方などさすがに年齢を隠せない様子だったが、「火付盗賊改方である!」の発生などまだまだ力強い。お声がしっかり出るうちの幕引きでよかったのだと思う。
若村麻由美は『老盗流転』で年増の色気を魅せたが、今回は予想を超えて辛い過去に悩む女の風情がよかった。谷原章介は死角のない俳優というイメージだが、ときどき甘くて良い声が鬼平の世界にそぐわないような印象を持った。もちろんミスキャストとは思わない。
田中泯はいい役ばかりやる兼業俳優。登場シーンの笑顔に凶悪さがにじみ出ていたような……報謝宿に向かう時にあれではあかんのではないか。

鬼平』シリーズは初めて見た時から、「総合芸術」と呼びたいくらい映像美と音楽の味わいと緩急自在な演出と達者な俳優陣の組み合わせが見事だった。最終回を仕切ったのが、先日の『顔』の冴えた演出も記憶に新しい山下智彦監督でよかった。なんといっても長らく企画を担当してこられた能村庸一氏にお疲れさまと申し上げたい。