『池波正太郎時代劇スペシャル 顔』(時代劇専門チャンネル)

ネタバレあり。

原作未読。

真田丸』は楽しい歴史エンタテインメントだし、土曜日の『忠臣蔵の恋』は新規顧客開拓のためにも時代劇の火を維持するためにもよい試みだし、今年は時代劇ファンにとっては悪くない年だ。さらにありがたいことに、またしても時専チャンネル(今回はJ:COMも協力)が心に沁みるオリジナルドラマを作ってくれた。

朝靄、池、川、湯気……水の表現が印象に残る。メイキングを見たあとだけに、雨のシーンがうまく撮れていてよかったと安心。

いつも以上に街中の風景にリキが入っているというか、こんなに物売りがいっぺんに映る場面は記憶にない。煤払いの道具が売られていることで、年末の風景なんだなとわかる仕組み。「お神酒徳利、縁かがり」は初めて聞いた口上だ。

十五年前にさかのぼる回想シーン。かなたの信州の雪山のさえざえと美しいこと。こんな画面だけでも、見てよかったと思わせる。
筆をとる梅渓にゆっくりズームインしていく、このいかにも丹念な絵作りが本作の醍醐味。
そして遠藤浩二のBGMが渋い!

報酬はいつもの倍以上だ、和助を斬れと迫る久五郎。極悪人と断じる気になれない和助を斬ろうとして、機会をつかみかねる十蔵。傑作『老盗流転』を彷彿させる、じわじわじりじり息詰まる心理戦で視聴者の目を釘づけにする。

絵に心がすなおに出る人、出ない人。一流の画家はどちらが多いのか? どの芸術分野でも人格と作品の美には関連性がないとはよく言われることだが。

大事を成したあとの十蔵の顔に虚脱感やら罪悪感やらいろいろなものがにじみ出る。出家でもするのかと思ってしまったが、穏やかに畑仕事をする場面につながった。完全な幸福感を得ることはかなわず、心に澱をかかえて永らえるのか、それも上質な短編小説の締め方だ……しかし、音がとつぜん途切れる。「刺客に襲われるのか?!」との予感ははずれた。仕掛人の最期としては、病死だからまだよかったと思わないでもない。

剣と絵筆の両方に秀でた男の思うに任せない人生を97分で描いた珠玉の時代劇である。
石原興の薫陶を受けたのかどうか知らないが、山下智彦の陰影に富んだ演出がすばらしい。次回作が楽しみだ。
金子成人は手練れだが、十蔵夫婦の仲睦まじさを表現するための会話がちょっと説明過剰だった。お沢の姉の台詞が、女優のしゃべり方もあいまってうるさかった。

松平健は予想外に小味な魅力を発揮していた。十蔵の妻、お沢を演じたのが佐藤友紀。自分にとっては『新・半七捕物帳』以来ほぼ20年ぶりの再会だが、つつましく凛とした風情は変わらず。鬼首の勘兵衛を演じたのが冨家規政。ワルそーでいいねぇ。信吉役の小野塚勇人は、とても時代劇初挑戦とは思えないきびきびとした好演。やくざもんの危険なにおいをさせつつ、信義を捨てない男に説得力を持たせた。石黒賢がいいと思ったのは初めて。

今夜と明晩は、鬼平の親方のサヨナラ公演か。心して見ねば。