『真田丸』第38回『昌幸』

重要人物が四人退場。前回は関が原の敗者の悲哀を存分に描き、今回は信繁の起死回生の道がどんどん細くなっていくようすを描いている。上杉景勝はひきつづき存命だが、会津百二十万石から上杉三十万石まで減封処分。もはや頼れる大名ではなくなってしまう。

板部岡江雪斎を侮るな。お主のまなざしの奥に燻っている熾火が見える。いずれ、たれかがその火を求めに来よう。楽しみにしておるぞ、真田左衛門佐」
二十年前、三十年前の大河に出てきたとしても違和感のない味わい深い台詞を残し、江雪斎が退場した。これは信繁にとって励みとなる予言のようでもあり――茶々の「そなたとは同じ日に死ぬ」のような残酷な響きはないにせよ――のちの行動を縛る呪いの言葉のようでもある。

ほかの重要な登場人物三人は、死をもって退場した。
若いころは苦労も多かったろうが、三人のうち一番幸せな人生を送ったのは本多忠勝である。槍働きで主君家康の大望成就を助け、兵としての用がなくなってからはちょくちょく娘の嫁入り先を訪ねて稲の子もこうの子も分け隔てなくかわいがり、小刀を持つ手元が狂ったのをきっかけに潔く暇乞いをする。
清正は、危険な若きカリスマのもとにはべる危険な邪魔者ということで、徳川の命を受けた半蔵に暗殺される。三成の別れの言葉に意外性がなく、少々肩透かしだ。
主人公の父というのは、たいていの大河で2~6月には退場するものだが、今年は全ストーリーの四分の三の長きにわたり生き延びた。三度の飯よりはかりごとと戦が好きで、しかし大局を見る大戦略家にはなれなかった"国衆あがり"の与力大名、真田昌幸九度山で老いて死ぬ。

山西惇は北条に忠義を尽くした名参謀を好演。これだけできるのだから、他の作品でも重臣、重役などやってもらいたい。
藤岡弘、は、終始チャーミングなド―ベルマンだった。曲者の知将、正信と対照的な一本気の武将で、どちらが欠けても家康の栄達はなかっただろうと思わせる。
新井浩文の初大河が久しぶりのハイレベルな大河でよかった。とは言え、短時間の出演でも強烈な印象を残した『信長協奏曲』の斎藤義龍役にくらべると少々食い足りなかったのも事実。来年以降、おもしろい大河が現れるかどうかおおいに疑問だが、それが実現した暁には主人公の前に立ちはだかる強敵の役でぜひ再登板を。
草刈正雄は、野性味と茶目っ気と(『真田太平記』の丹波哲郎にくらべるとかなり)軽度の助平さを徹頭徹尾、魅力的に体現。身近にいたら迷惑千万な男だが、視聴者の立場なら「しょ~~がないなぁ、でもそこがいい」と楽しめるパーソナリティーであった。

家康以外にもはや大物はゼロか、と思わせたところで秀頼登場! 芸達者な中高年男優がそろったドラマに出てきて、顔の造形だけに頼ることなくカリスマをにじませる中川大志は立派。が、金粉が舞ってきそうな「秀吉のテーマ」(?)が流れると、はやくも不吉なムードが漂う。秀吉の卑しさや冷たさはなく、知性にも胆力にも恵まれていそうな代わり、徳川が天下を握った状態でどうしたら生き延びられるかわかっていなさそうなところが哀れである。
真田太平記』では、同時代の才色兼備役女優の筆頭、竹下景子が小野お通を演じた。それにくらべると、今回登場した八木亜希子はなんとも心もとない。来週からしっかりやってくれるかな?
一部で秀頼の実父の噂もあった大野治長を演じるのが今井朋彦かぁ……陰険というより消極路線で行くようだが、三谷がどんな最期を描くのか興味津々。

あまり視聴者に愛されていない感のある秀忠だが、「安房守の話はもうするな。あいつはもう死んだ」には、暗愚ではない次期指導者の片りんが表れている。上田の意趣返しも込めているのかもしれないが、昌幸を山から出したら碌なことをしないと見越すのは賢い証拠。むしろ、「もう許してもいいのでは」と言い出す正信のほうが、知恵者にしては判断が甘い。