新旧朝ドラ

オノマチ目当てで見た『カーネーション』がおもしろかったので、その後10作中5作に挑戦。『あまちゃん』はマイベスト、『マッサン』も政春中心の話は楽しんだ。『あさが来た』と『とと姉ちゃん』は三か月以内に視聴打ち切り。

とと姉ちゃん』は、『マッサン』のあと途絶えていた志あるドラマの復活かと思われたし、西田征史にも嫌悪感がなかったので視聴開始。めずらしく西島秀俊の奥さんが幸せそうだし、娘も風呂場でおぼれたりしないんだなと思っていたら、本人がまっさきに病死してしまった。浜松編は、小橋家の家風がていねいに描かれて見ごたえがあった。
深川編は、最初の方だけでも滝子の女傑ぶりや青柳商店のなりわいが無視されなかったのでほっとした。前作の主人公はやり手経営者のはずが、なんだかぼやけた奥さん像でがっかりしたので、今回である程度溜飲を下げることができた。

脚本家が人がいいのか(?)ネガティブなことを書くのが苦手なんだなという印象を受ける。
固定ファンのためにイビリ場面を用意したようだが、いきなり義務的にいじめ的言動が挿入されて、それがいつのまにか解消する、というパターンの繰り返し。
大日本帝国全否定を社是とするNHKからいろいろ指導がいくのだろうが、ヒロインが道の真ん中を歩いているからとおばさんにお叱りをうける件には、ここ笑うとこですか?と思ってしまった。まじめで野暮ったい多田の「ビアホールに行きましょうよ」にも面食らったが、行ってみたらひどくお行儀の悪い男どもに羽交い絞めにされたりする常子であった。現在でも欧米の柄が悪い酒場ならあの程度のことはあるが、日本のサラリーマン向けの店であんなトラブル発生とは、取って付けた感がありすぎ。大河『真田丸』が最新の学説を積極的に取り入れているからには、朝ドラスタッフも『理想だらけの戦時下日本』(井上寿一)くらいは読んで、テキトーにいい加減にやってた庶民の姿も描いてみればいいのに、それこそ腕が必要なのだろうな。こちらから仕かけなければ戦争にならないという虚構を前提とした歴史教育もどきもあいかわらずで、視聴者の頭に悪影響を与えている。

昔の朝ドラは颯爽としたヒロインとか、前人未到の分野に踏み込むヒロインを主人公に据えたと聞いているが、最近はとにかく女性視聴者――『マッサン』のときは男性視聴者? ――の自己愛を逆撫でしないよう、凡庸な人柄にしなくてはいけないのか? 子供時代の常子が感受性の鋭い利発な子でたいそう魅力的だっただけに、成長してからの姿にとまどう。女優さんにもモデルの女性にもいろいろと失礼では? 主人公をフツーにしなければいけない縛りがあるのなら、せめて鞠子は賢いままにしておけばよいのに、森田屋に居候する段になってから、無神経な言動がふえすぎ。これまた子ども時代は豊かな内面を感じさせた美子が、本役になってから「息苦しい」とかいまの贅沢な奥さんみたいな言葉遣いをしたときには勘弁してくれと思った。
戦後のGHQの検閲は戦中の内務省のそれより徹底的で手ごわかったことなども、まあ描かれないのだろうなぁ。


てるてる家族』再放送のついでに録画してきたが、30分のうち前半はおもしろく後半はさほど不愉快ではないがつまらないというのはけっこう辛いので、『とと』からは6月25日で脱落。『てるてる』は70回を超えたところで、どうでもいい、要らない、と思わせるエピソードが一回もない。大森寿美男は過去十年の大河で唯一コメディセンスが肌に合う人だが、朝ドラで見せるコメディセンスにも毎度気持ちよく乗せられている。演出家のリズム感と大森の作風がマッチしている。おもろい夫婦のかけあいも最高で、この点でも前作朝ドラで不満だった点が解消された。高度成長期の明るい日本と言っても、主人公一家の運命はそれなりに山あり谷あり。谷の部分もしかつめらしく、深刻ぶらずにさらりと見せるところが趣味がいい。なんといっても、宮川泰のOPが人を浮き浮きさせる。

LaLaで再放送した『ゲゲゲの女房』は完走。漫画家の妻が主人公だが、水木しげるとW主役のようなものだから話がもった、というところもある。主人公が内気なのは珍しいらしい。安直な木登りシーンがなくてよかった。引っ込み思案のヒロインの娘時代、結婚後の貧乏時代、水木が成功してからの多忙な時代、親が先立ち娘たちが巣立つ時代、と156話にちゃんと流れがあり、誰もとつぜん人格を豹変させたりせず、その人らしさを発揮して生きていた。ヒロインは夫大事の古風な女性だが、少々人情の機微に鈍感だったり、抜けたところもある。「あたしの自由が」とか過剰な自意識がなく、すがすがしい人柄であった。彼女の描き方以外でも、日本人の美しい心性を謳い上げる手腕なら、今は山本むつみが一番だと再認識した。最終回の手つなぎシーンも、お手本のような締めくくりであった。

大森寿美男山本むつみも朝ドラで成功して、大河の仕事が回ってきた。この二人以降、それを期待したいのは羽原大介だけである。原作付きで彼の脚本、主役が玉山鉄二だったら、いいものができそうだが……ヘタレじゃなくて堂々の硬派な武将、あるいは経世済民の男で大作を一つお願いしたい。