『真田丸』好調続く

第9回『駆引』
鷹に俯瞰させる形で、期間はわずか五ヶ月弱ながら濃密極まりない"天正壬午の乱"の終結を描いた。どれほど昌幸が策を弄しても大大名たちには叶わない。国衆の悲しさゆえのようにも、昌幸自身の思考法に問題があるゆえのようにも感じられるように見せているところがおもしろい。

名目上の主人公、信繁は体も心も一気に大人になった。作家によっては「大人なんか汚い、繊細なボクはついていけない」とうじうじさせることにものすごく尺を取るだろうが、三谷さん(たち)は大人のバランス感覚があるので、そんなことはしない。出浦はカラッとしたした慰め方をするだけだし、兄上は根が優しい人だが「今、俺はいっぱいいっぱいなのだ」と大人の都合で弟をあしらう。黒木華のほのぼの顔でごまかされそうだが、梅は「自分たちのリソースを損なわないためには、敵側の生命を奪うこともやむなし」と一人前の政治外交センスを示して信繁を目覚めさせている。まあ、好きな人が優しい口調で言ってくれなかったら、信繁ぼっちゃんの耳には入らなかったかもしれないが。

第10回『妙手』
昨年『知恵泉』で、真田が「上杉への備えとして徳川様にとって必要ですっ!」と訴えて、自分の城をまんまと徳川に建てさせたエピソードを紹介していた。それをドラマで見せてもらうのはまた格別。昌幸ってのは、"ぬけぬけと"とか"いけしゃあしゃあと"といった形容が似合う人だ。

齢七十にして意気盛んな矢沢頼綱。昌幸が甲冑姿で馬を駆ったり太刀を振るったりしなくても、こうして親戚筋が暴れてくれるので十分戦国合戦ドラマを堪能できる。綾田俊樹がこんな武張った役柄を貰うのは初めて? 大泉洋は『龍馬伝』で金銭感覚が緩いおさむらいさん相手に苦労するまじめな近藤長次郎を演じてはまっていたので、信幸役の好演も意外ではないが、綾田氏の演技はほんとうに新鮮。今のところ、どの男性キャラも戦国に生きる男として大切に扱われていてしみじみと嬉しい。

腹に一物も二物もありそうな本田正信の「真田安房守、そろそろ死んで頂きましょう……」に凄みがあった。来週の真田一族の運命やいかに?