『逃げる女』第3回『壊れたままの幸福』

慣れ合いがない、台詞や涙に頼るくどい説明がない、人と人とが近づく時には緊張感があり、二者の間には安易に越えられないラインがある。

公式HPではサスペンスと銘打っているようだが、自分にとっては久々のハードボイルドの佳作だ。
鎌田敏夫の過去の連ドラは『バブル』しか知らない。今回も『バブル』に散見されたような切れのある台詞が出てくるかなと思っていたら……「(わずか五歳の)小さな子供にも破壊衝動があるんだ」など期待通りで満足。梨江子がひどい目に遭ったのはあずみの妬みゆえかと思っていたら、どうも"憧れの人間がよそを向くので破壊衝動を発揮"説が濃厚になってきた。梨江子が大都市圏の大学院を出たのに地元で就職した理由はとくにないのだろうか。
彼女の旅に勝手についてくる美緒。何をやらかすかわからない危険な女だが、あの高校生たちの一人でも殺して逃げおおせるのは難しそうだ。第4回の冒頭は血しぶきか? 悲鳴か? 佐久間の回想シーンか?

七大都市ではない土地を舞台ことにも新鮮味がある。「気がつけば1都8県にまたがるロケを敢行」したとかで、今後の野外シーンにも興味津々。今回、風力発電の風車が点々とする田舎道を、距離を置いて梨江子と美緒が歩いていく場面にはいつまでも見ていたくなる魅力があった。主要登場人物たちの心象風景そのままの、白茶けたような画面の色調がいい。HPに撮影担当者の名前を載せないとは失礼な話だ。

上野耕路の音楽の、とくにドラムの音が耳に残る。
黒崎博メインDは『火の魚』、『帽子』も演出したのか! 第3回は中島由貴Dだが、レベルは落ちなかった。
越智篤志Pは『精霊の守り人』も担当するとかで、ますます3月が楽しみになってきた。

最近の女性主人公のドラマには滅多に食指が動かない。梨江子はキャンキャンうるさくもなく、ジトジト湿っぽくもなく、過酷な運命を背負っているにもかかわらず、見ていて疲れない。主演の水野美紀はぎりぎりのところで戦い続けるヒロインを好演。この人の特技であるアクションを生かせる作品がなかなかないのは残念だが、今回はいままで培ってきた演技力を十分に発揮していると思う。
深見がいい奴でよかった! 高橋務はどんな役を担当しても、地に足のついた芝居を見せてくれる。
遠藤憲一はずいぶん掛け持ちしているようだが、(すくなくとも今作では)芝居が荒れていない。梨江子がデートに行ったと聞いて一瞬「それはよかった」と喜んでやる表情の繊細なこと! 今後、佐久間が事件の真相をつかむだけでなく、自分の内面に破壊衝動以外のものを見出す展開もありそうだ。