読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

『大杉探偵事務所~砕かれた過去編』

『64(ロクヨン)』、『経世済民の男』シリーズ、『洞窟おじさん』。今年のドラマはNHKの一人勝ち状態だったが、本作はそれに迫る力作。精神的にダメージを受けたくないときには絶対に見てはいけないハスミ・ノワールの佳作だ。劇場版と同じくPG12にしてもよかったのではないか。いくらMOZUチームががんばってきたといっても『ホワイトチャペル』並みの作りになるとは予期だにせず。もはや小説「百舌シリーズ」からかけ離れたものとなっているTBS&WOWOW作品だが、『砕かれた過去編』はかなり逢坂剛の作風に通じるものを感じた。とくに三島の傷ついた目は、逢坂作品に出てきた息子を殺された父親と同じ気がするのだが、小説の登場人物名が思い出せない。

予告で黄色いキャップを見たとき、大杉が誤って子どもを撃つか、あるいは子どもを犯人から守れなかったパターンかと予想した。だが羽住英一郎が用意したのは、はるかに入り組んだ苦い展開だった。「信じる」という言葉の重さがのしかかる。

画面が怖いだけでなく、死体を海から引き揚げたさいの捜査員たちの臭がる芝居もたいへんリアル。画面からにおいが伝わるところまでテクノロジーが進化しませんように。

あやうい雰囲気をただよわせて妻子の話をする三島を見れば、すでに二人とも死んでいると推測できる。妻子の死が明示されるのが開始後36分。もっと長時間じりじりさせられた印象だ。

百舌模倣犯による連続殺人と小池リナ失踪事件の二つが並行するうえに、時系列がかなり複雑に前後する。羽住スタッフが総力を挙げて視聴者の知性と感性に挑戦している。

小池リサが妹の服を着せられて……新谷兄弟の生い立ちパターンと、微妙にかぶる要素だ。奇妙で強引な教育方針からリサの両親は極悪人なのか、と疑わせる。今回はミスディレクションに全部引っかかりながら見たかもしれない。

開始後1時間5分で流れる抒情的なピアノ曲。雨に打たれる男たち。痺れるようなハスミ・ノワールだ。
そのまた5分後には説明的な長台詞。羽住にしてはめずらしい。
大杉は上司から「いつでも戻ってこいよ」と言われる。一度やめて戻れるのか?

大杉は依頼料を依頼主に返金する。ハードボイルドやなぁ! しかし彼は金よりもっといいものをもらったのである……と、いいところで「お父さんてほんとサイテー!」。めぐみの「お父さんサイテー!」で締めるスピンオフを延々作りつづけることもできそうだ。

ときどきお遊びが入るのが息抜きになっている。村西に「ペナンですか」と言わせ、汚い大杉事務所に置かれた宅配便には"SUGUKURU"(すぐ来る)のロゴ。

ノワールのヒロインは端正な大人っぽい美女でなくてはならず、早見あかりは適役。
桐谷健太は『天皇の料理番』の洒脱な喜劇演技もよかったが、今回は大杉からあらぬ疑いをかけられる刑事として好演。彼のたたずまいのおかげで、三島の最期が悲痛極まりないものになった。
堀部圭亮の「管理人」は並大抵ではない重責を負っていた。この人は『ダブルフェイス』にも出ていたので羽住作品と相性がいいのだな。多才な脇役俳優だが、なかでも陰鬱で知的な役となると使い勝手抜群である。


MOZU以上に乗り越えねばならない障害が大きそうだが、月村了衛のどれかを羽住組で作ってもらえないだろうか。2015年現在の日本では、アニメならば『攻殻機動隊 新劇場版』など爆音、絵の緻密さ、ストーリーの整合性の三つをそろえることが可能。実写映画となると、三つそろうのはまだ数年を要するのだろうか。