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『あさが来た』6週と2日経過

『あさが来た』はひと言で表すならまぎれもないプロの職人芸だ……好き嫌いはともかくとして。

どんなドラマを展開するのか方向やルールが明確で、メインストーリーはわかりやすく、話のつじつまが合い、道徳的な不快感はなく、知的な緊張感を強いることはなく、しかしながら好事家向けには台詞や小物の意味を深読みするお楽しみも与えている。何より、NHKにありがちな押しつけがましい問題提起がないのがすがすがしい……今のところは。

波瑠は少々行儀の悪いふるまいをしても怒鳴っても、下品にならない個性を持っている。目鼻立ちが整っているだけでなく肌がきれいで、雨粒が頬を伝うアップの美しいことといったらなかった。ハイビジョンは役者泣かせと言われているが、この人と宮崎あおいと子役だけは泣かなくていいようだ。

加野屋主の部屋のインテリアや道行く人々の服装や乗り物の変化で、江戸から明治に変わって世の中が洋風に移行していることが無理なく説明される。
五代はヒロインに大所高所からの指導をする存在だと思うが、ともすると落馬しそうな白馬の王子さまといった風情で、この人の使い方だけはもう一工夫ほしい。ディーン・フジオカの演技があれこれ言われているようだが、まだこれからの人ではないのか。今は名優扱いの近藤正臣だって、若いころは一部アンチから「気障すぎる」とか「すぐ消える」とか言われていたのだ。

たった一週間でも厳しくも温かい今井家の養育方針がしっかり描かれていたために、あさとはつの結婚後の行動が納得できるものになっている。
今井家、加野屋、山王寺屋という三つの店の描き分けがたくみで加野屋の使用人たちのキャラ立ちも見事。

15分内に事件が多いわりには詰め込んだ印象がない。あさが寄り合いに縫物を持っていくなんてやり過ぎではないかと思ったら、あとで姉や美和の行動を描くために不可欠なシーンだった。余裕はあっても無駄がない、緻密な作りだなとあとになって感じ入った。素人くさくこれみよがしに伏線を張っておきながら回収できませんでした、みたいなことは今後もなさそうだ。毎回次への興味を持たせて終わる上に、毎週金曜日に山を作り、今のところ中だるみがない。このレベルが半年も持続するのだろうか??

視聴率狙い、好感度狙いの佐野Pだから、新次郎に妾を迎えさせるわけがないと思っていた。美和の断り文句がなかなか粋で、大人の対立場面でむくつけでない言い回しを書けるのも大森女史の美点である。(正月時代劇では野々すみ花演じる薄墨大夫復活とのことで、年明けの楽しみができてたいへん嬉しい!)
ついでながら、新次郎がふゆを毒牙にかける展開もこのスタッフならありえない。脚本が中島丈博でBSだったら話は別だが。

日本のドラマは母親age父親sageに偏るきらいがあるが、『あさ』は三人の父親がじつに魅力的だ。忠興を見れば、あさの未来の成功は鋭い嗅覚を持った父親の血を引いたことにもよるだろうと思わせるし、正吉は彼女と最高に相性のいい舅であり上司である。栄達は無能というより、急激な時流の変化に乗りそこなったあまたいる商人の一人である。薪割のシーンで肉体労働の適性やら落ちぶれた生活への覚悟やら示したために、野良仕事の場面にも唐突感が薄い。忠興と栄達が遠くから目礼を交わす場面は、長く心に残りそうだ。京大を出たあとワイン飲む以外なにやってんのかと思っていた辰巳琢郎がいい演技をするのでびっくりした。「これからはお父ちゃんと呼んでや」のくだりにもなんとも温かみがあって、自分のようなひねくれ者にも「都合のいい舅だな」と茶化す隙を与えなかった。

菊はだれにでも分け隔てなく態度が悪い人間で、典型的な性悪姑とは毛色が違う。孫を扱いに困る動物のように眺めたり、客を追い返すためにネズミの鳴きまねをしたり、妙な可愛げを発揮し出して目が離せない。成人後のあいのすけを"愛之助"が演じたら楽しいな。
よのは根っからの善人のようだが、はつを訪問した際のふるまいで、貧困とも労働とも多忙とも無縁で生きてきた女性の無神経さを露呈する。大森女史は意外に意地が悪いなと思った。あさにとっては、荒くれ炭鉱夫より財界の石頭親父より、よののほうがはるかに手に負えない存在となるはず。お買い物三昧の生活を支えるためにどれだけの労力が払われているか、一生理解できないタイプの女性である。

リアル広岡浅子が坑内火気厳禁を知らなかったはずはなく、今朝のエピソードはあさの未熟さを象徴するための創作だろう。親方があさをひっぱたいたのは、女性への暴力ではなく、無知な子供へのおしおきと見るべき。あの程度でもクレームの電話かける人がいるんだろうなぁ……欧米のドラマなら、もっと乱暴な男はいくらも出てくるのに。
洗練された京や大阪から筑前に舞台が移って、画面にワイルドな――『平清盛』のスタッフならもっと汚しをかけただろうが、まあ朝見るものだからあれくらいが適当か――活気が生まれた。しばらくは、治郎作親分が男性キャラの一番人気になるだろうか。


このドラマはウェルメイドなエンターテインメントであると納得したうえで、現実に戻るとつっこみどころも少なくない。以下、『あさ』大ファンの方はスルー推奨。

*どうしてもWヒロインの片方を貧乏にしなければいけないのなら、ハツは幼馴染にしたほうが無理がなかった。現実的に考えたら今井の主が窮乏する娘と孫を引き取らないわけがない。

*栄達はともかく、はつがいきなり農業生活に順応しているところはやっぱりおとぎ話。「農業舐めんなよ」のつぶやきを見かけないのは意外だが……ツイッターはホワイトカラーの玩具だからか?

*第6週のあさちゃんは一生懸命でほんにかいらしい若奥さんだったが、日本一の女あきんどになれそうな知恵やらしたたかさやら、あまり感じられなかった。これからもあんななのかい? 朝ドラが始まったころの視聴者は高みにいる並外れた女性にあこがれたのだろうが、平成の視聴者は自分のレベルに引きずり下ろせるようなタイプしか好まないようだし、お茶の間に嫌われないあさちゃんで通すためには、愛嬌と相撲だけで道を切り開くのかな~。一度くらい大物相手の理屈っぽい丁々発止を聞いてみたいものだが。
マッサンは過度に庶民的なおっちょこちょいにされてしまったが、玉山鉄二の演技力と撮影班のがんばりで、たまに惚れ惚れするような切れ者に変身する瞬間があった。波瑠もそのような瞬間をもたらしてほしい。仕事描写の比重は『カーネーション』並みはとても望めないが、せめて『マッサン』よりは多めに願いたい。

あさが正吉から指導を受ける場面がこれ以上増えなかったらかなり残念。

*新政府の借金棒引き令が大打撃で、加野屋もじり貧。あさの石炭熱はお道楽ではなくお店を救うための奮闘なのに、新政府ショックが台詞で語られるだけで、画面からダメージが伝わってきにくいのが残念。毎回「明治○年○日現在の加野屋の貸付総額○両。このままではお店が潰れてまう~」みたいなコーナーでも設ければよかったのに。本来なら現行リーダーの正吉が判断を下すべきところまで、あさに丸投げするのはどうなの?と思っていたら、未亡人すえとの会見の席で、やっと社運を賭けることにしましたと明言していた。うんと好意的に解釈すれば、あさの覚悟を試すためにぎりぎりまで黙っていたとも取れるが……。

*18禁めいた表情で粉かけときながら、新次郎の分際で薄墨太夫の誘いを袖にするとはふてえ料簡だな(完全にまちがった視聴者代表)。源氏の大将に愛妾がいると噴き上がるご時世とはいっても、二人は過去にも情を通じたことはありませんみたいな描写に、しょせんは少女漫画なのかと鼻白んだ。雨降る境内のヒロインと夫の抱擁にフジテレビじみたBGMが流れる展開に半笑いを浮かべたふとどき者は全視聴者の1%?
若旦那が1週間のうちに何をしたかと言えば……あさと美和の女心をまどわし、おっかさんを糠喜びさせ、はつに叱られ、最後に歯の浮くような台詞を吐いて『助六』よろしく傘を差しただけである。こんなんで株が上がるんだったら、またちょっとした描写で「川に投げ込め」騒動が起きることだろう。なぜ自分が新次郎ブームに乗れないかというと、芸事に逃げてはいても"淫している"ように見えないからかもしれない。同じニートでも『デート』の巧にはしかるべき(?)屈折した知性があったのだが、それも感じられないし。

*大河でも朝ドラでも夫側が「妾とか側室とか持たんよ、わてはあんさん一筋」と誓うのが美談みたいになっているが、それって妻の妊娠出産義務が重くなるわけで、女性に優しい決断とは言い切れないと思う。新次郎も仕事の役に立たないなら、せめて生物として役に立ったらどうかと思わないでもない。
別枠を比較すべきでないとはいえ、『高橋是清』はPDWおよび役者の格がちがったなぁ~、と先延ばしにしてきたダビングを敢行する決心がついた。