読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

『あさが来た』お師匠さんの出番が少ない件など

コミカド弁護士のご高説を聞かずとも、朝ドラは自分向きではなさそうなので、過去に見たのは三作品のみ。ダントツに好きなのは変化球と言われた『あまちゃん』、二番目に好きなのは朝ドラにしてはヒロインの柄が悪いと言われた『カーネーション』。『マッサン』は、朝ドラヒロイン無双のエリーとお友達のキャサリンが"出ない場面だけ"気に入った。
宣伝からすると王道朝ドラになりそうだったし、『篤姫』の高視聴率に味をしめた佐野Pが仕切るからにはいっそう苦手なテイストになりそうだったが、幕末から明治を舞台にした貴重な時代劇ではあるし、『吉原裏同心』で見惚れた野々すみ花が出演するしで、『あさが来た』は放送開始からだいたい視聴してきた。
金持ち階級出身のエリート女性というと、日本の映像作品が一番苦手な題材である。佐野Pの作風は『吉原』以外好みでなく、大森美香NHK単発はげんなりするのと、そこそこいいと思ったのと二作品しか知らず、ハードルを下げまくって見始めたのだが……今のところ、すこぶる快調に感じられる。

予想に反して、かわいくてちょっぴり生意気なヒロインがなんかすると、周囲が見境なくほめそやすようなパターンに陥っていない。あさは「嫁に行ったらお家を守れ」との親の言葉に耳を傾け、ヘンだと思うことがあったら幼児のごとく理由を訊きまくり、チョロイ亭主の力を借りつつ自分で店の経営状態を調べ、上司の許可をとりつけて取り立てを開始する。今日の正吉の「あんたはビューっと料簡が通っている」発言に視聴者がうなずけるようにできている。コツコツ意欲と才能を証明するだけでなく、突飛な行動をたしなめられると一度は「すんまへん」と素直に引き下がるところにも好感が持てる。モデルになった女性はもっと豪快でいろいろ波風立てるタイプだったのだろうが、とりあえず消費者としての女性の地位が高くなった平成日本では"荒くれ女一代記"を薄口甘口仕立てにしないと受け入れられないし、なんといっても土ドラやBSプレミアムではないので、育ちのいい陽気なお嬢さんのお話になっているのはやむを得ない。

放送開始前は2週もつかどうかも自信がなかったが、1週目、忠興が「今井がご公儀を見限るときが来たのかもしれへん」と語るシーンに、おっ!と思った。ちゃんと時代の動きを描くつもりがありそうだ。そして昨日は庶民が大阪城炎上を見て仰天し、新政府が商人たちに多額の資金調達を要請し、今日は大阪で銀目手形が使えなくなるのでお客がパニック状態で両替屋に押しかけるさまが描かれた。

ヒロインのプライベートな空間と店と世の中の動きが有機的につながったストーリーになっている。あさと対比するために、分別のあるはずのはつが直截に商売について尋ねる場面などは、"ためにする"脚本になっていて残念だが、姉妹の対比もおおむね自然に盛り込まれている。毎回毎回、わずか15分のうちにおおぜいの登場人物を生き生きと動かす脚本、演出には脱帽である。とくに加野屋の人々は、白岡の血を引く者も奉公人たちも自分の親せきのように身近に感じはじめた視聴者が多いのではないか。

若干残念なのは、とびきりの豪商のはずの今井家や白岡家の屋敷がそこまでに見えず、あさの婚礼シーンもなんかしょぼかったこと。祝言のあとはと言えば、並みの町人ならともかく、あさクラスのお内儀が黒襟をかけるのはどうなのか? とりあえず、大店の若奥さんが供も連れずに外出したり水仕事をしたりするのが、当時としては非常識なことだと説明されたのはよかった。『ダウントンアビー』なら家政婦頭か姑が「使用人の仕事を奪ってはいけません」とたしなめるところだ。

 

キャストでは、なんといっても愉快なモモンガみたいな鈴木梨央と繊細で思慮深そうな守殿愛生が魅力的だった。1週間で退場したのが惜しいような、絶妙だったような。鈴木梨央ははつらつとしているだけでなく、未来の傑物のたたずまいを醸し出せるところが末恐ろしい。

波瑠が得意な役柄は本来はつタイプだと思うのだが、だからこそ熱演しても反感を買いにくいのだろう。とても相撲が強そうには見えないので、その手のシーンになると脳内で「ホントは渡辺えり、ホントは渡辺えり」と唱える視聴者が少なからずいると思われる。登場時はやや心もとない印象だったが、だんだん演技がこなれてきたし、今週に入ってから商人らしいしたたかな台詞をしゃべらせてもらえるようになったので、これはいけるかもしれない!と思えてきた。本日ラスト、「お待ちやす」のキリッとした表情は藤村志保を彷彿させた。

民放での安売りを断固拒否して大成功しているのが伊勢谷友介。だけど宮崎あおいはどうなのか……と思っていたが、大丈夫だったようだ。塩田明彦是枝裕和の映像世界で非優等生を演じるときが本領、という当方の固定観念をくつがえし、つつましく凛とした古風な女性を見事に演じている。嫁入りのために家を出る場面で、「悲しくないはずだから」と脚本の泣き要請を断ったそうで、立派なことだ。「涙流せば視聴率取れるし~」とゴネなかったスタッフも偉い。

ボンクラ新次郎が玉木宏。『平清盛』に出演したときはまぎれもない一流俳優だったが、その後骨太路線に行く道を断って義朝ファンをがっかりさせている。この人のコメディ演技は生理的に苦手で、若いころの船越英二ならもっとエレガントにやれるのにと思うこともあるのだが、目の肥えた歴ヲタ諸氏が褒めているので、どうやらいい演技らしい。晩年の老け演技はかなりいけるはず。脚本家が"根は賢くて観察眼がある"設定を途中変更させたらと思うとぞっとする。

視聴動機におおいに関わる野々すみ花があれっぽっちしか出ないのは肩すかし。新次郎を迎える場面の演技は、薄墨大夫とは似ても似つかぬコミカル路線だった。美和と新次郎のやり取りくらいは明るく清くから脱線してもよさそうなものだが……。一家の主が妻以外の女性と子供を作ってしまうエピソードは、『高橋是清』以外ではクレーマーが怖くてとても無理??

『吉原』の芸達者から野々すみ花のほか、山内圭哉三宅弘城も出演。新↑田↓大番頭がラブリーだったという回を見逃したのは不覚。彼があさと袂を分かつときの演技が楽しみだ。「びっくりぽん」を一番うまくさらっと言えそうなのは山内氏だ。

友近は役柄の上でも演技の上でも、いるだけで安心な存在。あさ、ふゆと一緒の場面ではいつも以上に保護者らしい存在感を発揮していた。

このドラマで一番株を上げたのが、今のところ柄本佑。家に縛られ時代に翻弄されながらも、はつと気持ちを通わせていく設定にちがいないので、だんだん表情のバリエーションがふえていくことを期待する。

本人はおもしろがって演じているのだろうが、今後ご苦労も多そうなキャストが萬田久子。人間を一面的には描かない脚本なので、菊にもままならぬ事情があったことが描かれるだろうか。

所作に違和感のある俳優がいないだけでもすばらしいドラマだと思うが、なかでも寺島しのぶの動きは流麗だ。お引きずりの裾さばきをもう一回拝みたい。

今井の家長を演じる升毅も、加野屋の家長を演じる近藤正臣も重責を負った大店の主を体現。正吉は優しくて柔軟性があるだけでなく、「新政府に乗ってみよう思いますのや」と語るときなどは決断力ある経営者の貫禄たっぷり。男どもは軒並み腰抜け設定にされるかという危惧を裏切り、ダメ要員は新次郎だけで、有能であるべき男たちは有能に描くようだ。めずらしいくらい正統派ハンサムのディーン・フジオカだけはいつも唐突に現れる。五代才助の使い方を誤ると、うるさ方が視聴を打ち切る危険性あり。

風吹ジュンが平成から江戸に転生しても高等遊民の息子に悩まされているのがおかしい。よのは時代の変化にポカンとしながらも、テキトーに波間に漂って生きていくのだろうか。

山本耕史がまたも土方歳三として復活したのに驚いた。彼の出番は三谷幸喜が書いたとか。ひたすらかっこよく武士の時代の終わりを体現していた。