『洞窟おじさん』完全版始まる

13歳で親の虐待から逃れ、43年間サバイバル生活をしていた男の半生

という情報を先に聞いていたら食指は動かなかったが、7月に番組PRを見かけ、オノマチが出ているならと2時間版を見て……大正解だった。いくらでも湿っぽく演出できる話ながら、かなり抑え目のドキュメンタリー・タッチにした場面が多く、予想外のギャグを出してきたり、ちょいちょいドアーズの"The End"を流して画面をクールダウンさせたり、ユニークな作りのドラマだった。野外シーン、とくにしんと静まり返った森の風景などは、映画館で見たいと思わされるレベル。べたついた作りにできるテーマをあえて乾いたタッチで……というと『55歳からのハローライフ』を連想するが、意外にもスタッフはかぶっていないようだ。監督、脚本の吉田照幸が過去に関わったのは、『あまちゃん』と『サラリーマンNEO』とか。
スタッフは『55歳』と重ならないが、キャストのリリー・フランキーは両方に出演。『55歳』ではかつてブイブイ言わせた営業マンの成れの果てを演じ、今回は数奇な運命の男を演じ、どちらも抜群のセンスで主人公を体現している。ナンシー関に「しょうがないねぇ、リリーさんは」と言われていた時期から何も変わってなさそうなのだが、芝居のセンスには脱帽するしかない。これでもしスクエアな役を演じてもうまかったりしたら、専業俳優さんたちは形無しだ。

2時間で傑作だからと言って、8時間バージョンもそうとは限らないが、とりあえず最初の2時間、第一話はおもしろかった。少年時代の洞窟生活が丁寧に描かれるので、2時間版よりもヒューマンドラマ色が強い。でもベタベタしてなくて○。食糧調達や防寒対策がイラストもまじえながら具体的に説明されるのがよかった。富田海人は、傷つきながらも純でタフな少年を演じて完璧。
浅利陽介のすこしでもユーモラスな役を見るのは初めてだが、いつもより抑え目の生瀬勝久とのかけあいもよかった。「嫁とちがって愛のある犬」について熱弁をふるう場面が最高だ。
あまりにも短い出番だったが、中村優子が拝めたのも得した気分。足尾で蟻地獄のような人生を送っているらしき雰囲気を漂わせ、8時間バージョンに出てくる女性のなかではたぶん一番重い人生を背負った設定なのだろう。