超低速! 『鬼と呼ばれた男~松永安左エ門』感想

予想どおり鋼太郎がウルサイウルサイ。松永のキャラクターも強烈なだけで特に魅力的というわけでもなかったが、画面の絵作り、音、物語とも、三作中もっとも力強いドラマだった。しいて言えば、『是清』の魅力はしみじみした味わい。『一三』の魅力は軽妙なケレン。

つるんとした20~30代のイケメンは一人も出てこず、おっさん、じーさん達の丁々発止やら裏工作やら愚痴やら、まーおもしろいこと! 一番守備範囲が広いのはジェームス三木だろうし、森下佳子ももちろんよかったが、ディベートで魅せる点では池端俊策が一番。松永より格下のような国策パルプ副社長の言い分に理があるのでは?と思わせる場面が圧巻だった。演劇的訓練を受けたわけでもなさそうなうじきつよしの芝居が、ときとして主役を上回っていた。池端氏は公式HPで「松永安左ェ門の晩年の顔写真は強烈である。人間一生闘いだと思い知らされる顔である」と語っている。舌戦を含めた闘いのドラマを描き切ってくれた。

一度は喧嘩に負けたかに見えた松永が、最後の大勝負で逆転するのだが、それは日本にとっては屈辱と言うべきポツダム政令を促すことだった。暗殺されて終わる『是清』より苦い後味が残る。

松永はいわゆる慶応ボーイ・タイプではないが、今作では複数登場する慶応出身者の一人であるし、一三も慶応出だった。NHKは本当は福沢諭吉のドラマをやりたいのか? (だけど差しさわりがある??)

パワーを感じさせる打楽器のBGMが「男の闘い」のドラマにふさわしい。静かな曲はなんだか『55歳からのハローライフ』に似ていると思ったら、やはり清水靖晃だった。

ナレーションは萩原聖人WOWOW社会派ドラマとしては久々にストーリー自体に新鮮味がある『しんがり』でもナレーションを担当している。落ち着いた声質が社会派ドラマに合っている。
NHKのドラマに白洲次郎が出てくるのは、この七年で三回目。風貌だけなら今回の高川裕也が本人に酷似している。
電力事業の分割民営化を断固拒否する日本発送電総裁が藤木孝。公家臭を醸し出すのが巧みな彼はまさに適役。
大昔、池端脚本の『太平記』に出演時は一年とおしてワンパターン気味の怒鳴り演技をしていた高嶋政伸だが、その後ずいぶん含みのある芝居ができるようになったようで、超秀才の池田勇人役に違和感がない。