超低速! 『小林一三~夢とそろばん』感想と大河ネタ

森下佳子はオリジナルだと失敗する」説を聞いていたので、恐る恐る鑑賞……が、オリジナルだけどおもしろかった。主人公の思考と行動をしっかり脈絡をつけて描き出す脚本もよかったが、それ以上に梛川善郎の演出が強烈で、やたらとミュージカルじみたシーンをはさんだり、ダルマが出てきたり、合計2時間だからげっぷが出なくて済んだ印象。『是清』とちがって、もっと見たいとは思わなかった。
金子隆博のはずむような音楽は、宝塚を作った男の物語にぴったり。

たとえ軍部批判のためとはいえ、NHK共産主義批判が聞けるとは、時代が変わったということか。「人間の本質とは欲。我欲だよ。」に始まって、おそらく森下女史の真骨頂たる血の通った台詞がえんえんと続く。一三は是清とはかなり違った人物ながら、七転び八起きの半生をときに愉快にときに深刻に描き出した。
これなら再来年の大河は安心できるかと言えば全然そんなことはなく、2時間ドラマならいざしらず、45分×50回前後の長丁場を原作無しで、しかも知名度の低い人物について書くなど、無謀としか思えない。先日、『光圀伝』の作者が逮捕されて、多くの大河ファンが落涙したものだ。『光圀伝』レベルの原作があって脚本家が森下女史ならなんの不安もなかったのだが……。一番の問題はプロデューサーの見識の有無。インタビューを読むかぎり、へたすりゃ出来が悪いときの『知恵泉』(Eテレ)のコントレベルになりそうな……。

NHKスペシャルドラマだから当然企画ありきのはずだが、仮に「阿部サダヲありきだった」と言われたとしても信じてしまえそうなほどの、はまり役だった。今回のドラマを見てしまうと、お調子者の坊ちゃんにして才人を彼以上にうまくやれそうな人を思いつかない。
奥田瑛二は(も)もうけ役。「岩下からは以上だ!」は当分耳から離れそうもない。
瀧本美織の日本髪の似合いっぷり! 声質も昔の美人を演じるのに向いている。三作とも、今でも明治・大正のドラマにはまる若手、中堅女優が選ばれていてほっとした。
大東駿介が演じたのは、某有名政治家をモデルにした人物。この人、若いのに妙な辛味があって、出てくるたびに巧いなあと思わされる。
主人公の息子役の井上芳雄がナレーションも担当する意味を、後編ではいろいろ考えさせられた。年老いても活躍できる人は、我が子に先立たれるような辛い目に遭ってしまうのだ。あえて不気味さを強調する映し方をしていたと思うが、包帯からギョロリとのぞく井上氏の片目は不吉なものを感じさせた。