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『玉音放送を作った男たち』

単発ドラマ

ドラマのおもしろさは、何を描くかと同じくらい、どう描くかで決まる。
落ち着いた色調、品のいいBGM、扇情的ではない進行のテンポとも、歴史ドラマの鑑と言っていいような演出だった。台詞のレトリックは魅力的であり、台詞のない場面の演出も雄弁だった。脚本、演出担当の佐藤善木氏のこれまでの経歴を見ると、今作が初の噛みごたえを要求される作品のようだ。この人の次回作――できればBSプレミアムか総合で! ――が楽しみだ。

知識としてためになったのは、下村氏の発案で玉音放送で初めて敗戦を国民に知らせるために、新聞の配達は遅らせたということ。昭和18年の時点で、下村氏は国民に気力を与えるための玉音放送を望んでいたということ。

原田美枝子のナレーションが上質。
下村夫妻の夫婦像に味わいがある。夫人は一流の歌人の薫陶を得て夫から一目置かれ、自分の意見を持つのびやかな人柄である。

全体に好感は持てるのだが、マスコミ、なかでも朝日新聞を犠牲者のように描くのは笑止。戦時中でも、内閣情報局が発行する週報を読めば正確な情報を得られたはず。小冊子『謀略決戦』(1943年)にはガダルカナルアッツ島の惨敗が記載されている。長らく朝日に勤めた下村に「新聞はつねに公平な位置に立たねば」と言わせるシーンはなんのブラックコメディかと思った。

この時代、李鴻章は「りこうしょう」と読むべきでは? こういう場面では、『天皇の料理番』のスタッフなら……と思わないでもない。それともNHKにその手の決まりがあるのか?

下村が天皇への拝謁叶ったあとのシーンの台詞。「言ってくださった」ではなく、ご本人の日記のとおり「と仰せられた」でよいのに。それにしても、実物の日記は編集者に優しいきれいな筆書きだ。

畑中少佐は放送実現の最後の障害となったが、やむにやまれぬ理由があることも描き、粗野な言葉遣いをさせないところも、佐藤氏の見識である。

ラジオの前に集合する国民の服装がこぎれいだが、映画のように手間をかけるわけにいかないので、仕方なし。

通信社のニュースをもとに、終戦のまとめ原稿を書くシーン。こういう地道な作業の経緯も省かれないところがよかた。

和田アナが音声担当の女性に語りかける場面で、働きざかりの男たちが招集されたので、女性も責任のある仕事についた時代背景が簡潔に説明される。
玉音を聞いて泣いていた和田アナが、冷静に真剣に仕事をする女性を見て、しゃんとせねばと(?)涙をひっこめる場面。台詞なしの場面としては一番重みを感じた。名前がわからないが、この女優の清潔感、清涼感も印象的。

玉音放送の内容は各所で読めるようになったが、最後に和田アナが読んだ終戦関連ニュースは、原稿または録音が残っていたのか? 佐藤氏が書いたのか? とくに、国民の心構えを説く部分の格調がすばらしい。
「我々は耐え難きを忍び、あくまでも祖国復興に邁進しなくてはならないのであります。この悲痛な事実に現実に直面し、いまや国民全部が責を分かつべきであります。時局を痛憤するあまり、同胞たがいに傷つけ合い、その結果、経済的、社会的、道徳的混乱を引き起こすようなことは、皇国滅亡の因であることを、固く銘記すべきと存じます。偉大な国民として構成すべき血と涙の戦いは、きょうから始められました。我々一億は、この現実を直視し、国体護持と民族の名誉保持の最後の一線を跳躍台として、一段と苛烈なるべき復興戦に突入し、いまこそ三千年の伝統に即して、ただただ大御心に帰一し奉り、無窮の幸運と神州の不滅を確信しながら、君臣親和のもと、全国民一致団結してこの未曾有の国難の克服に邁進すべきと存じます」
すばらしいと書いておきながらなんだが、このころの2600年とか2605年を3000年と称する習慣は、ずいぶん大雑把な四捨五入だな。


柄本明は若いころはヘンタイっぽい役が多かったのに、すっかり人格者カテゴリに入ってしまった。二人の息子もやがてそうなるのだろうか??
青木崇高はあいかわらずNHK御用達俳優。民放に出るには軽薄風味が足りないので、これからもこの路線を維持すべき。
高橋一生は、『風林火山』ではものすごくいいとまでは思わなかったが、昨年来『ペテロの葬列』、『信長協奏曲』、『民王』、本作と良作、もうけ役が続いている。狂気まじりの無私の軍人像に説得力を持たせた。見るからに濃いタイプではない役者のなかでは、影のある知性派として独自の地位を確立している。全員が感情表現ひかえめな諜報ドラマで主演してほしい……などと思うが、そういう企画はなさそうだなぁ。
瀬戸康史は、甘めな外見に似ず時代劇適性のある人だ。今作では難局にあって職務を全うする昭和の男がはまっていた。「~と存じます」がさまになる若手は貴重。和田アナを演じて、『花燃ゆ』での不遇が取り戻せたのではないか。