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『神谷玄次郎捕物控2』最終回『日照雨』

振り返ってみれば、パート2は悪い奴をふんじばってめでたしめでたしパターンが一つもなく、最終回もやりきれない事件だった。

「助けを呼ぶか?」「めんどくせ」は高橋光臣がかっこよかった。
その後の「てめーらも獄門にかかりてえのか!」は山崎樹範がかっこよかった。今作ではこの人の時代劇仕様の野太い声がたいへん魅力的だ。

変人かダメ人間の役を当てられがちな佐藤二朗が、有能で公平冷静な例繰り方役を好演している。
上司に叱られた神谷をかばったのちずるっと横に移動する鳥飼が愉快。

政太役は大浦龍宇一かと思ったら高杉瑞穂という人だった。大店の跡取り息子が合っている。予告を見た時はこの人が犯人かと思った。お久しぶりの根本りつ子があいかわらずきれいだ。

江戸の経済にさらりと触れるナレーションがいいし、脱穀作業とか経師屋の仕事とか、数秒映るだけの場面もていねいに作っているところが本作の美点の一つ。
お津世の子がたびたび「かーちゃん、遊ぼう」と言うのだが、近所に友達がいないのかな? 時代劇お決まりの、「わーい」と言いながらどこからともなくやってきて、どこへとも知れず走り去る児童集団が出てこない。

女郎のおたきを演じる女優さんがいいなあと思ったら、昨年『雲霧』のおきね役も印象に残った三津谷葉子だった。派手な美人というわけではないが、浮世の塵にまみれてもきっぷのよさを残した女がはまる。「すぐにあきられちゃってさぁ」、「引きずっていたって、なんにもいいことないんだもの」をさらりと言って、鳥飼が励まさずにはいられないのも納得の雰囲気を出した。長めの台詞の間の取り方など、一部ベテラン勢よりよかったくらいだ。

飲み屋で菊枝殿への思いを吐露する鳥飼。うしろで婆さんが泣いてるのがおかしみもあってよかった。
抱き合う神谷と鳥飼を見て「何なすってんですか?」と銀蔵。後ろで目が泳ぐ直吉に笑える。長谷川朝晴はつねに場にしっくりなじんでいる。
一番おかしかったのが、おさくの「わたしを酔わせてどうする気?」
笑いが少ない藤沢ドラマだが、今回は数えてみると三つもコミカルなシーンがある。

許嫁が店で辱めを受けたと知るや、「すぐに嫁にもらうことにした」信助のいい男っぷり。惣六の怒りの口説が見る者の共感を誘う。「ゴミみてえな野郎を殺して何になるんだ。ばかばかしいじゃねえか。あんな野郎がいつまでも好き放題やってられるはずがない。いつかかならず天罰が下るはずだ。かならずだ。おめえがやることはねえ」

場面変わって、沈痛なおももちで歩いてくる神谷と銀蔵。あっという間に婚礼当日だ。
「祝言を見届けてきな。でもかならず戻るんだ」
ここで哀愁を帯びたメインテーマのストリングスが流れる。パート1最終回もこんな風にBGMが使われたっけ。
銀蔵が「お上にもお慈悲はある」と言い添える。パート2はしきりとこの台詞が出てくるなぁ。
雨が降り出す。
「ああ、日照り雨だ。誰かが泣いてるんだろうぜ」
まぶしさに目を細める神谷と銀蔵のツーショットが絵になる。和製ハードボイルドである。

〈よし野〉の二階からおさくの昭和のバラエティめいた馬鹿笑いの声が聞こえてくる。
「いいんですよ、好きな者同士がいいんですよ」と驚きの豹変を遂げるおさく。
「当分のあいだ(玄次郎様は)一人ですよ」
前回までは陰鬱な終わり方だったが、最終回は玄次郎とお津世が楽しそうに目を合わせるショットで終わった。毎回、無理に笑わせよう、あるいは泣かせようとせず、すぱっと終わる。
欲を言えば最終回ではあるし古田求ではあるし、強烈に印象に残る台詞が一つほしかった気はする。

NHKと松竹のタッグで、パート1以上に夜の匂いが濃厚な人情話&捕物帳を楽しませてもらった。今季は心にわだかまりを残す陰気な話が多かったが、それもまたドラマの魅力の一つである。
高橋光臣は江戸もの役者としては、完全に三十代役者のなかで頭ひとつどころか二つくらい抜けている。みずから努力して殺陣を身に着けて、それを発表する場を与えられたことが喜ばしい。「なんだとぉ?」、「なにぃ?」、「てやんでぇ」みたいな江戸っ子台詞がさまになる。次男を殺されて嘆き悲しむ両親を前にしても、情に流されず少々怖いプロの目つきを崩さない演技もいい。『真田丸』の大きめの役に抜擢されないものか。
この人を桔梗鋭之介あるいは柴左近にした『三匹の侍』のリメーク実現はありえないだろうか。桜一之進はキャラだけなら濱田岳だが、槍の名手となると、もう一役といっしょにJAEの隠れた逸材を発掘すべきか。

江戸ものらしい身振りとセリフ回しがダントツなのは、もちろん中村梅雀。神谷に手を焼く上司として、小野武彦が出てくるたびにほのぼのした。 山下容莉枝は、奉公人には口やかましく、神谷の旦那には甘く、亭主をしっかり支える髪結い床の女将を演じて、やはり場を明るくしてくれた。