どっちが大河?

『花燃ゆ』第17回『松陰、最期の言葉』
録画視聴。
実質上の上三半期の主人公が退場したというのに、この感慨のなさはなんぞ? 主人公(仮)の文は、兄の論理を理解できなかったのはしかたないにせよ、情においても濃いつながりがあったようにも見えないのが困ったことだ。宮村優子女史がこれ以上のものが書けないとは信じられず、脚本家複数体制の弊害が出たとしか思えない。そして、おだむー(小田村と書いたら、史実の小田村氏に申し訳ない)の出番を無理にでも作らねばならない大人の事情の弊害か。このおだむーが、大人の知恵で松陰を説得に行ったはずなのに、結局「自分らしく、言いたいこと言っちゃいなヨ」とそそのかして帰ってくるわけのわからん人物で、こんな気分屋さんな男と結婚して、文ちゃんの人生ダイジョブなのか?

なんでも過度にかみくだく大河にしては「憂国の一念」なんて台詞が出てくるのがアンバランスな印象。わざわざ井伊大老と松陰の対面シーンを創作するのなら、それなりに盛り上げてほしいものだが、井伊の「国の秩序は大切じゃ」の前に松陰の言いぐさが子供じみて聞こえるようでは、なかったほうがましというもの。
斬首の寸前、松陰の顔を下から映す趣向だけは新鮮味があった。

事前にいろいろ勉強した役者さんとしては、けっして満足できる松陰像ではなかっただろうが、大河に出て一番得をするのは、4~7月に惜しまれながら退場するキャストであるし、ほかの出演者にくらべればダメージがひじょうに小さいことも事実である。伊勢谷友介は、ばかみたいなシチュエーションにあっても基本"知識人"に見える得難い個性を持っている。映画『ジョーカー・ゲーム』の結城中佐もシャープでよかったし、これからもお安くない俳優として映画、NHKWOWOWで活躍が期待できそうだ。数少ない出演ドラマでは、驚くべき比率で歴史上の有名人を演じている。次は、ドイツに留学して女泣かせて帰ってきた森鴎外あたりオファーされるのだろうか? 留学してノイローゼになって帰ってくる繊細な漱石なら綾野剛? と、とりとめもないことを考えていたら、この二人が園子温監督の『新宿スワン』で共演するもよう。園映画には資金の潤沢な自主映画みたいなものがあるので、映画館まで行く気はせず、来年のTV放映を待つことにする。
おだむー主役の大河につきあうのはまっぴらなので、今回でさようなら。黒島結菜がかわいいだけでは視聴継続できない。来週は伊原剛志の龍馬で視聴者を釣るつもりらしい。JAC出身のスターを大事にしろい! 今後は、大河ファンが「今回はおもしろかった」とつぶやいた時だけ土曜日にチェックする方針。小さなお友達も見る夕方5時放送の『アルスラーン戦記』が国家間の緊張とか情報戦とか描写してちゃんと大河してるのに、なぜ夜の実写ドラマはこのていたらくなのだろう。

天皇の料理番』第一話
リアル視聴。家族につきあって見ただけなのだが、予想以上の出来。『坂の上の雲』初回に通じるほがらかな明治が描かれている。文明開化期の生活習慣をていねいに描いているし、なにより若い佐藤健黒木華が平成の匂いを消して昔の人になりきっているのが好もしい。篤蔵の、熱しやすく冷めやすく喜怒哀楽が激しい、弾むような個性が魅力的だ。難度の高いでんぐり返しをいともやすやすとやっていた。控えめだが芯の強い妻やら、視野が広くて賢く温かい兄やら、男くさい先輩やら、日8ドラマに欠乏している成分がたっぷり。猫にいたるまで出演者がもれなく演技力を発揮している。
JIN-仁-』と同じくBGMの音量が大きすぎるのが難点。お節介な説明は興をそぐ。今後、仁先生なみに頻繁に主人公にびーびー泣かせるのはやめてほしいなぁ。良家の子女に立ち聞きさせた部分だけは近年のダメ大河みたいだったが、次回からはなしでお願い。
とりあえず、山あり谷ありの立身出世物語のつかみはOK。小学生にもわかりやすく、定職に就いた大人が見てもアホくさくなく、よい意味でベタで手堅いつくりで、この枠に合った感動作になりそうだ。NHKの次期朝ドラがこのレベルのものを作れるのかひじょうに心配である。