『花燃ゆ』第15回『塾を守れ!』

冒頭20秒はまるで大河ドラマのように緊迫感があった。なぜ日米修好通商条約に尽力した岩瀬忠震を出さないのだろう? この人と井伊大老の決裂を描くだけで大きなダイナミズムが生まれるだろうに……大河とBSの歴史番組の質にここまで開きがあるのはちょっと歪だ。
安達もじり演出らしく、印象に残る個性的なアングルがいくつかあった。桂を遠目に映す場面などは、冷静に時局を見据えることができる同志がほとんどいない孤独感が伝わってくる。松陰が怖い顔で「なぜじゃ、なぜ……なぜわかってくれん……なぜわからん……守らねばならんのじゃ、国を……この国を!」と悶えるシーンのホラー映画じみたこと!

このレベルの作りだと、松陰は妹の泣き落としにころっと反省してしまいそうなものだが、「酷なことを言うのぅ……それは僕の生き方ではない」で始まる長台詞は、けっこう真に迫っていて興を惹かれた。生きてことをなすのが不可能ならば、いっそ死んで名を残したい……彼が若くして思想に殉じたからこそ、弟子たちはいろいろ(物騒な)ことをなしたわけで、大島女子の長台詞は的を射ていないわけではない。それでも、藩政の実情や幕府の重鎮たちの思惑がホメオパシーレベルに希釈されてうっすらとしか描かれないので、大思想家がただの引きこもり誇大妄想狂に見えてしまうのがひじょうに残念。伊勢谷友介は狂気の知識人役におあつらえ向きの精悍な顔立ちに恵まれているのだから、スケールでかく頭よさそうな台詞をしゃべらせてあげたいなあああ! イギリスにアヘンを押しつけられた清の惨状を描けば攘夷派の焦燥にも説得力が出るのだが、もともと和製ドラマには外国の悪どさを描かない慣習があるうえに、CPの構想力が貧弱だから、『花燃ゆ』は箱庭ドラマから大河ドラマに脱皮することができない。