『かぶき者 慶次』第一話『石田三成の子』と『神谷玄次郎捕物控2』第二回『昔の仲間』

せっかくの藤竜也主演なのに、制作、原案、脚本が恐怖の『天地人』トリオとな。一話で挫折を覚悟して録画視聴した。
渡辺俊幸のOPがまるで若干骨太な大河のようで、地面すれすれまでハードルを下げておくこともなかったかな、と思わされ、またナレーションが近年手堅い助演で魅せてくれる田畑智子と判明して、またうっかり喜んでしまい……でも、そこまでだった。

作り手は、いったい何歳くらいの視聴者を想定しているのだろうか? 渋いベテランを主役に据えて「いのちはたいせつにしましょう」みたいな噛んで含めるお子様ランチ台詞を連発するセンスがよくわからない。いくら気さくだからって、武士が女中に「さん」づけするのもなんだかなぁ。藤竜也を大事にしろい! ま、彼には『龍三と七人の子分たち』があるからいいけど。殺陣に迫力がなかったのは、スタッフにもキャストにも原因あり。慶次は長槍の名手だったとされているから、今後槍をふるう場面があるのだろうか?

言葉遣いが今風でも、所作が滅茶苦茶でも、作品にエネルギーがあればどんななんちゃって時代劇も楽しめる、ということが昨年の『信長協奏曲』でよくわかった。だから、もう一味何かがほしい。田畑智子に免じて次回も録画するものの、この調子では最終回まで完走する自信がない。中村蒼工藤阿須加西内まりやといった若手に時代劇の経験を積ませるのはよいことだと思う。


続けて傑作金曜時代劇の感想を書くなんて、われながら悪趣味だが――
神谷の旦那の大立ち回りがないことに気づく暇もなく、苦い人間ドラマを堪能した。
町人おうめの言葉遣いが、現代の中流夫人じみているところなど、ベテラン脚本家、田上雄の書いた台詞が一部引っかかる。

「ほう、何かあてがあるのかい」。高橋光臣の語尾が江戸っ子らしくて○。巻き舌の台詞も聞いてみたいものだ。旦那が味にうるさいってのは、今回初めて知った。邪魔になると料亭から同僚を追い返すとこがヒドくて笑える。

おうめ役は、亭主運のない女をやらせたらトップクラスの遊井亮子。幼子を抱えて長屋で貧乏暮らしを送る女の役は、これから何回もオファーが来そうだ。

銀蔵が作十に聞き込みをする場面。梅雀と石橋蓮司といったら『夜兎の角右衛門』のコンビではないか。二人が語り合う場面のはしでおおぜいの人足がちゃんと仕事をしている。このへんの丁寧な演出が好もしい。
宇兵衛が往診を受ける場面。総髪ではない医者を初めて見たが、何か意味があるのだろうか。
篠田三郎石橋蓮司の共演は記憶にないので、ベテラン対決の渋いシーンながら新鮮味も感じる。人間はいいことをしながら悪いこともする、悪いことをしながらいいこともする、という池波的な世界が展開する。篠田はながらく知的で誠実な役を演じてきたのが、白髪交じりになってから(映画『接吻』から?)悪や冷酷さを表現する機会を与えられ、多彩な魅力を持つ役者になった。

終盤、宇兵衛がはやまって作十を刺してしまう。「えええー、おうめはどうなっちまうんだ? すごくおでこの広いかわいい孫娘の祝言が取り消しになっちまうじゃねえかー!」と脳内で取り乱したのだが、時代劇ならではの同心の粋なはからいで、三十両はおうめの手に渡り、祝言は無事に終わり、宇兵衛はまさかの畳の上エンドとなった。一度でも悪に手を染めてしまった男二人の運命の分かれ目、成功した男の疑念、失敗した男のいじましさと意地のかけら……『神谷』のなかでもとくに心に残るエピソードになりそうだ。

高橋光臣の殺陣の重量感がすばらしいと思ってきたが、竹光ではなくジュラルミン製を使っていることも功を奏しているようだ。来週のダイナミックな立ち回りが待ち遠しい。