『神谷玄次郎捕物控2』第一回『出合茶屋』

昨夜は、あまたの欲求不満の時代劇ファンにとって、ちょいとした祭りであった。

惜しまれながら完璧な幕切れを迎えた『神谷玄次郎』なので、はんぱな出来では「こんなことなら続編なしのほうがよかった」などと言われかねない……が、そんなことはなく、心弾む出だしを見ることができた。

第一弾はOPの渋さがたまらなかったのだが、『2』では主人公の「ぐうたら」ぶりを押すべく、玄次郎が川べりをぶらぶらしながらあくびして、それから舟に寝転がるくだりがOPになっている。
全体に大満足ながら、昼の場面になると白茶けたような画面になりがちなところだけは、改善を望みたい。

今回の『出合茶屋』は1990年版にはなかった話で、古田求の新作のようだ。玄次郎とお津世が、第一弾よりも若さを見せて小さな喧嘩をするのが新鮮だ。

巴屋に押し込み強盗が入った件を調べる北町奉行所。
銀蔵親分は、裕福な商家の女将おとせから、何者かにつけられている、との訴えを受ける。玄次郎が、おおかた亭主の仕業ではないかと高をくくっていたところ、おとせは何者かに襲われる。
はたして、二つの事件につながりはあるのか?

高岡早紀が演じるからには、おとせは訳ありの美女に相違ない。他の作品なら「実は泥水すすったこともございました」が一番ありそうだが、今回はもとから大店のお嬢さん。だったら、「実は賊と情を通じたことがございまして」かと思ったら、たった一度のあいびきで使った出合茶屋で、悪党の顔を見ていた、という真相が明かされる。ものすごくドラマチックというわけでもない状況を長台詞で語るわけで、高岡姐さんの演技力(とそれを受ける高橋光臣の芝居とゆったりしたカメラワーク)が見せ場をきっちり作り上げた。あまりおもしろくなかった『テンペスト』でも、彼女の聞得大君は圧倒的に魅力的だったのを思い出す。

おとせが己の行状を反省する一方、彼女の夫は「女房は、婿養子の自分に舐めた態度をとってきた。そうさせた自分が悪い」と語る。このへんの人情の機微は、地上波ではもう描けないのだろうか? 二組の男女の反目や許しを並行して描き、終盤で絡ませる古田求の筆が冴えていること!

第一弾では、板前の勝蔵がお店や女将さんの行く末を案じていた。酸いも甘いも噛み分けた男を控えめに演じた上瀧昇一郎が魅力的だったが、『2』ではいろいろと濃い高橋和也が板前役。第三話ではこの人がクローズアップされるとかで楽しみだ。
ダメな感じで出てくることが多い佐藤二朗が、今回は有能な文書係をやっているのも嬉しい。

鬼平犯科帳スペシャル 密告』で台詞の欠点も克服し、もはや危なげがない高橋光臣の見事な主演ぶりに惚れ惚れした。JAE出身というわけでもなく、自分から東映剣会に出向いて殺陣の稽古をしたとかで、○○あたりに彼の爪の垢でも煎じて呑ませたい。盗賊との立ち回りは狭い空間での太刀捌きが抜群だったし、EDには「次の時代劇スターはこの人だ!」というNHKスタッフの愛情と誇りが感じられた。殺陣以外では、「おう、鮒の甘露煮か。とっといてくんな」の身振りが粋で印象に残る。普段はのんきそうにしていても、聞き込みとなると険しい"同心の目"になるのもさりげなくかっこいい。

次回のゲストは石橋蓮司篠田三郎。渋い人情劇が待ち遠しい。