『天才探偵ミタライ~難解事件ファイル「傘を折る女」~』

ハムスターは見た!
化粧が濃いおばちゃんの、最初から裏切るつもりの『走れメロス』案件が発端で、おばちゃん殺されるわ、めんどうな女がアパートに乗り込んできて自爆するわ……島田荘司の作風は日本的湿度を嫌うタイプかと思っていたのに、白いドレスの女の「謝罪を求める」思いがキーとなる推理ドラマであった。最後に崖のようなところで心情を吐露する場面は、うわさに聞く火サスか土曜ワイド劇場かってなノリである。

島田御大は長年自作の映像化を拒んできたそうだが、死に体になってからのフジに許可するとはタイミングが悪すぎる。

終盤が予想外にベタな作りなので、前半は切れ味鋭くなければならないはずだが、BSプレミアムの『アイアングランマ』(演出:飯田譲治)など思い起こすと、もうちょっと早く場面転換を!と感じる箇所が多い。
ガリレオ先生じゃあるまいし、数式など不要な事件なのに、数字ぐるぐるのCGが出てくるのも興ざめ。
小林義則は、主演の役者としての能力、魅力を最大限に発揮させた唯一の連ドラ『ギルティ』を担当した演出家である。『ギルティ』は台詞の行間を役者の芝居が埋めるタイプの演出が功を奏したのだが、『ミタライ』は演出のエッジの効き具合が勝負になる作風であり、小林氏の得手という印象は受けなかった。夜間場面の照明は雰囲気がある。どちらかといえばおもしろが、再見したいとまでは思わせないドラマだった。

料理の腕は『リーガルハイ』の服部さん並らしい石岡君が、ルームメートと刑事のためにご馳走を用意する。あのコンロにあんな大鍋は載らないとか、何日がかりで消費するのかとかいう以前に、四人とも皿を持ち上げて食べるのが気になった。

フジが想定する主たる視聴者が感情動物だから、どんまい先生に感情動物をやらせたのだろうか。キーボードに優しくないPC操作といい、いちいち人に突っかかる態度といい、ちょっとやりすぎ。
勝村政信のうまさもあり、男性刑事が醸し出すユーモラスな空気はよかった。
堂本光一の舞台風演技が気になったのは、出だしのみ。
玉木宏演じるミタライは奇矯な天才というほどでもなかったが、なにしろ二年前の山室社長を最後にインテリジェンスを感じさせる芝居ができなくなっているのでは?という疑惑があったので、とりあえず凡人よりは知的な探偵に見えてなにより。9月放送予定のNHK経済ドラマ『鬼と呼ばれた男~松永安左エ門』の白洲次郎役が回ってこないものか……それとも小澤征悦、小泉孝太郎眞島秀和あたりで決まってる?