『デート~恋とはどんなものかしら~』第4話

変化球の連続に唸り、終わってみるとまるで王道のヒューマンドラマを見たような後味のよさが残った。

時系列をあっちこっちさせる手法は初回からだが、今回は抜群に効果的。各登場人物の行動がどんな心遣いからきているか、どんな会話がきっかけとなったか……小さなミステリの種明かしの連続だった。

時系列は以下のとおり。
1.当日 依子の貧相な上司「デートかなー。いいね」依子「はい、デートです」。サンタのコスプレでスクーターに乗り、律儀にUターンすべき地点でUターンして巧の前に現れる依子。
2.あと9日 電話でデートの提案をする依子。
3.あと5日 娘のクリスマスの予定を訊くべく公務員宿舎にやってくる依子父。依子のお茶の分配がやや雑になっている。息子のクリスマスの予定は「どーせ○○でしょ」を連発する巧母。
4.あと3日 両人同時に「24日のご予定は?」メール送信。
5.あと2日 「しかたなく」デートすることを親に報告する両人。
6.当日
アバンでこの量、民放と思えない情報量だ!

7.あと6日 剣道場で鷲尾が依子父に、お嬢さんへの恋心を告白。なんだ、まっとうな展開か。
8.あと5日 なるほどそれで父が宿舎を訪ねてきたわけか。
9.あと4日 鷲尾、依子父から依子さんの好みのプレゼントを聞き出す。
10.あと2日 鷲尾、あえなく撃沈。カワイソー。
11.当日 男二人でぼやき飲み会。『ベルサイユのばら』を植物に分類する依子(爆)。目分量がわからない依子。
12.25年前 巧はよい子だった。
13.当日 孤独な少年の顔で階段にすわる巧。
14.14年前 巧、天才の錯覚が崩れる。
15.当日 巧母、ひき続き息子の遍歴を語る。
16.14年前 巧、就活に挫折し、高等遊民宣言。
17.当日 巧母が「いろんな生き方があっていい」と言っても、誰も安易に賛同しないリアリティー。依子がプレゼント進呈のさい、(悪意はないが)母親をけなすようなことを言ったためにキレる巧。依子同様、親に愛情を持っているのだ。ここで流れるピアノ曲がリリカルで月9的? 両人とも、傷ついた子供の顔。男気あふれる佳織からプレゼントの意味を知らされ、母親に励まされ、宗太郎のトラックで依子の宿舎へ向かう巧。ところがトラックより前にタクシー到着。鷲尾君がだめなら、お父さんがサンタになるんだ! なぜか部屋に依子がいない。第二の不法侵入発生。布団にくるまった依子父に抱きつく巧。ここで「ギャー!」と言わせない演出がスマート。巧と行き違いになったかと思いきや、実家に来ている依子。うたた寝する鷲尾を父と取り違え、プレゼントを置く。警察からの電話で宿舎へ。パトカーの中で紹介される依子父と巧。ロボット口調の依子が「とりあえず、来年からは鍵をかけることにします」。巧が「そのほうがいいと思います」。早朝、若者二人で依子のマンションに戻る。巧、無事にプレゼントを手渡す。と、中身はネックレスではない。
18.4時間前 マニュアルの書き込みに気づいて二階に上がる佳織。巧が買ったペンダントをした巧母は、引出しから……私は肩こり用磁気ネックレスを出したのかと思っていたが、そんんな散文的なものではなく、息子お手製の無期限肩たたき券であった。
19.当日 空が白む。依子の肩をたたく巧。鷲尾、「いつでも来てください」カード&鍵のプレゼントを見て、壮大な勘違いと歓喜にひたる。


自分には心がないと言う依子に、「そんなことはない。心がない人間なんていませんよ」と言葉をかける巧。『リーガル・ハイ』SPの「医は科学です!」以来の感動を覚えた。古沢脚本はシニカルなユーモアを前面に出してくるものの、型にはまった優しさの押し売りで人を息苦しくさせる"泣けるドラマ"なんぞよりよほど風通しのよいやさしさがある。

今回は、とにかく佳織がかっこよかった。プレゼント礼賛はもちろん、「わたしは待ってる。がんばってこいや!」も。露骨に女性視聴者に媚びたドラマというのは、男に魅力がないのはもちろん、かっこいいと思える女も出てこない。久々に民放でいい女を見た。従来のドラマなら、佳織には「あたしは勉強はできないかもしんないけど、人間的には依子さんより上等だよ。勉強ばっかしてる人間は云々」みたいな台詞を言わせるだろうが、そんな独善的な生き方の押し売りをしないから古沢良太は信用できる。(それでいて、『三丁目の夕日』みたいなベタな脚本も書くところが、食わせ物なんだな)。依子がプレゼントを渡したさいの口上はまったくもって最低だが、「巧くんのために、こんなに一生懸命調べてくれた人いる? こんなに手のかかったクリスマスプレゼント、あたし知らないよ」は当たっている。うさんくさい心理カウンセラーからニートについて講釈を受け、巧の役に立ちそうなプレゼントを企画実行したわけだ。

宗太郎は巧母を、「おばさん」でも「先生」でもなく「留美さん」と呼ぶ。リア充だから女心をくすぐる術を知っている。
最後に依子が「これだ!」と言ったのが気になる。来週種明かしされるかな。
予告で鷲尾が「依子さんなりにがんばってるじゃないか!」と叫んでいた。鷲尾も佳織化するのか?

善人でございという顔の人間は一人も出てこないのに、意外にもいい奴だらけのユートピア・ドラマになっている。巧母は奇天烈な息子に鍛えられたおかげで、依子程度の変人にはびくともしない。思いやりと機転と茶目っ気のあるすてきなお母さんだ。体調不良ネタは、今以上は進展なしだろうか。依子は女の怠惰やずるさとは無縁だし、巧は高飛車なところがあるわりに、自分がまちがったと気づけばなんのてらいもなく謝ることができる。「最悪だ!」だけは古美門っぽかった。

巧の高等遊民宣言のきっかけは、意外とふつうに"就活失敗"だった。しかし、まだまだ変化球への期待を捨てきれない。面接官が原節子とヘップバーンの悪口を言ったのがショック、みたいな。