『鬼平犯科帳 密告』

数年前からわかっちゃいたことだが、お頭老けたなぁ(溜息)。江戸家猫八蟹江敬三……と櫛の歯が欠けていくのも寂しい。あのスタッフ、キャストが揃ってこそのハイクオリティなので、吉右衛門以外の主演によるリメイクはとても考えられない。今年またこのシリーズを拝めただけでも、ありがたいと思わなければならぬ。尾美としのりだけは、あまり変わらないように見えるのが不思議。

演出のテンポ、人物配置、室内の落ち着いた照明、ときにみずみずしく、ときに荒涼たる野外シーン。津島利章のBGM、ジプシーキングスの『インスピレーション』。「人にはどうにもならないめぐりあわせがある」……これぞ安心安定の『鬼平』というもの。

このスタッフが『密告』をやるのはすくなくともこれで二回目。歌舞伎同様、ファンはストーリーがどうなるかではなく、どう描くかを楽しめばいい。
高島礼子のような情感のある仇っぽい美女は、今後ますます育ちにくくなりそうで残念。彼女の悲しみの表現、ひそかな思慕の表現とも、もちろんよかったのだけれど、贅沢言うともう一皮むけたらさらによいのだが。

伏屋の紋蔵を演じたのが高橋光臣。時代劇の希望の星にこの役が来てよかった! 立ち回りはうまくても、イントネーションにやや難があった人だが、今回はセリフ回しにひっかかるところもなく、格段の進歩が感じられた。捕縛されてから悪態をつき、打ちひしがれ、最後は母の思いを噛みしめ従容として死を受け入れる。表情だけの芝居にも深みがあって惹きつけられた。『神谷玄次郎』続編がますます楽しみになってきた!