『吉原裏同心』第12回

一度は越中山岡藩の剣術指南役の依頼を受けた幹殿が、自分の役目は吉原の女たちを守ることと思い直し、めでたく吉原永住を決める大団円。

帰ってきた神守夫妻に、おそらくは会頭の肝いりで売れっ子花魁たちが大サービスの宴会を開く。駆け落ち夫婦にとっては、遅ればせの祝言のようなものだろう。薄墨太夫にとっては、めでたいのか、生殺しが続くも同然なのか……。
小田和正の「いつも、そばにいる」という歌詞もメロディーも心に沁みるよい歌ではあるが、待望の野々すみ花たちの舞が実演される場面にかぶせるのはやめてほしかった。その場の楽曲の音を聞きながらでなくては、舞も魅力半減である。

研ぎ澄まされた作品が多いBS時代劇にくらべると、照明、カメラワーク、BGMなどはいろいろ物足りなかったが、吉原舞台の人情ものをやってくれただけでも貴重なことと言わねばなるまい。尾崎将也は、原作づきなら時代劇脚本家としてもやっていけそうだ。

大半の回で中堅女優がゲスト出演、女の哀感の芝居を堪能した。かならずしも主演クラスではない彼女たちが、いい具合に年を重ねているさまを見るのは心強い。
レギュラーの男優陣といえば、近藤正臣はさすがいぶし銀の魅力。山内圭哉の江戸っ子芝居はもっと見たかった。

が、とにかく最大の収穫は、野々すみ花という才能のドラマデビューである。ヅカで鍛えただけあって時代劇の決まり事がきっちり身についているうえ、舞台出身にありがちなオーバーアクトに走らないセンスも備えているのがすばらしい。今風の幼稚っぽいかわいい顔ではないので、民放には合いそうもない。なるべくNHK時代劇専門チャンネルで、時代劇中心で進んでいただきたい。薄墨太夫は高級な色気と奥ゆかしさが身上だったが、この人なら権高で野望を前面に押し出す寿桂尼もこなせるのではないか。問題は、庶民的な出たがりおばちゃんとは違う、高貴なインテリ女性を描こうというPDWがなかなかいないことだが……。大森寿美男は二回も同じキャラを書きたくないだろうし。

野々嬢以外で近藤正臣と同じくらい印象深かったのが、汀女役の貫地谷しほり。あれくらいできることは、時代劇ファンなら誰でも予想できたことではあるが。重ったるくない姉さん女房にして聡明なお師匠さんを難なく演じていた。遊女たちとの差を出すためのモダンな柄の着物が魅力的で、NHKの衣装部の趣味に感心。

『裏同心』と銘打つからにはチャンバラシーンが目玉になるべきだったが、殺陣がつまらなかったのは残念だった。小出君は、今後も時代劇に出たいのなら、まずは日舞(とできれば殺陣の稽古も)をやったほうがいいんじゃなかろうか。近藤正臣が「待ち時間に体をほぐすと、着物もほぐれてきちゃうんだな」と言っていた。さほど無駄な挙動が多いようにも見えないのに、待ち時間ならぬ本番中も着くずれしやすいのは困りものだ。
春日太一が『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮新書)で、今の若手は自分から勉強しないし、鍛えてもらう機会もないと嘆いている。『るろうに』が大評判の佐藤健はたぐいまれな身体能力を発揮しているし、『神谷玄次郎』の高橋光臣は時代劇俳優としての心得があるようだし、いわゆる戦隊もの出身俳優たちを見るかぎり、そう将来を悲観したものでもないと思う。10月の『闇の狩人』に登場する福士誠治にも期待している。