『撃墜』後編とフジのスペシャルドラマ

紫電改のスコープの仕組みを説明してほしかった。

前回予告を見た時の危惧は当たらず、後味が良い。日本の二次大戦ドラマはたいがい偉そうな反戦主義者が出てきて国体批判なぞを始めるものだが、主人公も妻もヘンな豹変によるキャラ崩壊とは無縁で、地道に真剣に生きていた。金義はどうしたら敵機を撃墜できるかを真剣に考え、同僚が特攻批判めいたことを口にしても、つられずに具体的な戦闘プランを教え、妻子に栄養が足りないと見るや、食料を調達する。妻の金義への訴えも、時代背景にのっとったものである。

武藤夫妻のお嬢さんのみならず、お孫さんも登場した。「おばあちゃん(喜代子夫人)はお母さんを大事にしたいから再婚しなかった」とお孫さんが語る場面は感動的。紫電改が引き上げられる場面も、現在展示されているようすも流れ、前回よりドキュメンタリー・ドラマらしい構成。

ベトナム帰還兵にふれた作品は久しくなかった気がする。アメリカがひっきりなしに戦争にかかわってきた国であることを、視聴者の何割が知っているのだろうか。


フジの単発ドラマは『命ある限り戦え、そして生き抜くんだ』とえらく長たらしいタイトル。中川大佐ひきいる日本軍がペリリュー島を守ろうと奮戦するドラマを意図して作ったのだろうが、必要なタメがないかと思うと、さっさと進めたほうがいいシーンがかったるかったり……演出家は意外にも『実録・小野田少尉 遅すぎた帰還』と同じ福本義人。10年近くたって腕が鈍ったか。

店の従業員たる小鈴が客に失礼な口をきいているのに叱りつけない女将が不思議である。久々に見る仁科亜季子はあいかわらず綺麗だが。
前半の山場といったら、中川大佐の気転で島民を逃がすくだりのはず。島民を乗せて出港した船に、島に残った日本兵が手を振る演出にすれば茶の間の感涙も絞れるものだろうに、どーしてまだ島民が浜辺を歩いてるさいちゅうに、キャッチボールができそうなくらい近距離までのこのこやってきて「元気でな」とか言わせちゃうんだか……。演出のセンスがなさすぎで萎えた。

後半、敵軍の恐ろしさを克明に打ち出さないのは、あいかわらず。
主人公の「頼みましたぞ」で終わらせるのは、よいほうか。
上川隆也はもちろん男優陣はおおむね好演。黒崎を演じた大杉蓮は、いつもながらの渋い助演。一番印象に残ったのは、第二連隊旗手・石丸少尉を演じた金子裕。口数がすくなく控えめながら、誠意や意志の強さをにじませ、もうちょっといい脚本で大きな役で再見したい俳優さんである。溝端淳平は、長髪はまああれだが、真摯に昔の若者を演じていた。