『吉原裏同心』第7回

これほどひんぱんにNHKドラマで花魁の八文字を拝めるとは予想もしなかった。そして、今回は薄墨太夫をメインにした話。

薄墨太夫が「私は恐ろしくなりました」と言ってわざわざ隣の部屋へ歩き出し、走って戻ってきて「だったら、なおさらあのような人にしてしまったのは、私のせい」と男の膝に顔を伏せる。よく考えると、ずいぶん芝居がかった動きなのだが、そうと感じさせない野々嬢がすばらしい。簾をくぐるとき軽く頭を下げなくてはならないのに、じつに動きがスムーズ。だがしかし、あのような超一流の女性が惚れるにしては、はちみつのかわりに饅頭が大好きなクマのぷーさんみたいなぷくぷくした幹殿はどーも若干格が足りなく感じられてならない。いくら年取っても四郎兵衛頭取のほうがはるかに男の色気がある。

維新のような動乱期ならいざしらず、あの時代に旗本の娘が治療代の返済にいきなり吉原を考えるだろうか? 家財道具と父祖伝来の家宝など売れば、なんとかなるもんではないのか? まあ、それを言っては小説が始まらないが。

おでこに特徴がある子役のお嬢ちゃん。走る時は裾を抑えるくらい、スタッフが教えてあげなければ。

辻本佑樹の立ち回りは楽しみにしていた。第2回の山口馬木也にくらべると、手加減せずにやっていた印象。それでも、もったいないことにかわりはないが。小出君ともども、天地人ヘアーなのがまったく興ざめ。これはプロデューサーの意向なのだろうか。辻本氏は殺陣だけでなく、「何を言うか!」などの台詞回しもよかった。兄の許嫁への思い……夜8時のドラマにしては複雑なものを描いていたと思う。

結局、幹次郎の剣に倒れる鋭三郎。『るろうに剣心』のヒロインよろしく「殺しちゃだめぇ!」なんぞと言わず、「武士として死なせてやるのがせめてもの情けなのですね」と薄墨太夫。これが時代劇の美学というもの。なんで大河ではこれができないのだろうか。

野々すみ花は、ときどき相手の顔をのぞきこむような表情をするのだが、それがけっして卑しい感じにならない。気品のある役を演じているときの三田和代を彷彿させる。最後、汀女をうらやましそうにしながらも、誇りを失わない芝居も見事。彼女と貫地谷の会話に味がある。若手女優のこんなハイレベルな競演には久しくお目にかかれなかった。

頻出する「さようですか」、「さようでしょうか」は余韻のあるいい言葉。