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『幕末高校生』

ネタバレおよび後半の不機嫌注意

歴史ヲタク時代劇マニア映画ファンははなから相手にしていない企画なのはわかっていたのだから、感想を書くなど大人げないことではあるのだが。
まずは、意外とよかった点から。
伊武雅刀のコメディ演技。出番が短かったからこそ。
石原さとみのコメディエンヌぶり。溌剌としていて、たまに迷いを見せる芝居は魅力的だった。声質が好みでない人には癇に障る役だと思う。おっとり奥さまを演じた『坂の上の雲』と今作しか知らないが、悪い印象はない。
吉田羊の美しく凛とした武家の妻演技。
・反対派に屋敷を荒らされたあと、目だけで会話する吉田羊玉木宏の演技。終盤の「行ってくらあ」と「行ってらっしゃいませ」。大人っぽい芝居の見せ場があれだけってのがもったいない。
・柳田っちが、私利私欲で勝に嫌がらせしてるわけではなく、徳川のおんためを思っていることが描写された。
・海舟の戦反対は、よくある平和趣味ではなく、国内で揉めていたら外国にのっとられる恐れがあるという理由を示したところ。
・立ち回りに、玉木の強みである「蹴り」が入っていた。
・和平会談の絵に、勝が畳の縁に膝を乗せたものがあるが、今回はそんな不細工な座り方ではなかった。
・「未来は明るいです」と希望を持たせる終わり方をしたところ。

冬休みのお子さんの楽しみのために『妖怪ウォッチ 誕生の秘密だニャン!』の前売りを買った親御さんが多いもよう。そういう方々は、夏休みはお子さんを『幕末高校生』に連れて行ってあげてください。むずかしくないからね!

上映中は、なんで一目で画面が松竹より格下ってのがわかるのか、東映だからかフジが金出してるからかとか、同じストーリーでも細田守がアニメ化すればヒットしたんじゃないかとか思いながら見ていたにもかかわらず、無理やりにでも書けば長所が五個を超えたのは意外。

フジは金儲けしか考えていないのに、マーケティングリサーチというものをやらないところが不思議だ。中学生向けデートムーヴィーを時代劇でやりたいようだが、それなりの創意工夫が見受けられない。

『高校生』と銘打っているわりに、高校生が活躍せず。三人とも江戸を見たことで成長したように見えない。優等生君は、医療技術が低い江戸の人々の生死を見ているうちに、やはり医学部を志すことにした、という顛末かと思いきや、そんなことはなかった。志望校決定にまつわる描写は、脚本家のセンスがかなり時代遅れな印象。今どきの子はもっと現実的というか、偏差値に頼りすぎるくらいなんだが。それにしても、あのクラスが全員大学進学を考えているとはびっくらした。

最後うどんが蕎麦屋で勝と語らう場面。監督はいい場面と思ってるようだが、あんまおもしろくないぞ。

観客はほとんど大人の未来人だから、勝のもくろみが成功したことを知っているが、そのフィルターがなかったとして、雨に打たれてたたずむ勝を「いろいろ考えてる」ととらえるだろうか? 小学生なら、「このおじちゃん、なんで何もしないの?」と思うのでは?

ヒロインがたびたび「勝海舟と言えば男らしいイメージ」と言う。勝に一般的なイメージなんてあるだろうか? やや幕末に詳しい人間が、口が達者で調子がよくて女癖が悪いイメージを持っているくらいではないか。最後の部分を真正面から演じたのは、知るかぎりでは西村雅彦のみ。義朝をやっていた時とちがい、今作の玉木にはあちこちに妾がいるような雰囲気はない。

佐藤浩市は予想通りいつもの浩ちゃん。海外進出などという余計な野心を持たなかったおかげで、以前ならナベケンや真田に取られていた役が回ってくるようになったというのに……今回の仕事は、連ドラと同じくくりで受けたのだろうな。

一部で、唯一金を払う値打ちがある場面といわれる、大立ち回りの長廻し。画面を分割したり、へんなとこでスローにしたりで、役者の殺陣がうまいのかどうかよくわからない。福本先生のえびぞりは確認。
鞘をつけたままぶんまわすってのは、やはりカタルシスはない。玉木も悪役やりたくないとか言ってないで、人間のクズだが腕だけは立つみたいな剣士をやればよいのに。

薩長が攻めてきたら江戸に火を放つ」ってのは、薩摩相手に言わなきゃ意味がない。和平会談で、勝がその言葉で西郷に揺さぶりをかけるくだりが全部すっとばされて、座ったかと思うと協定締結後の和気藹々のおしゃべりに場面転換して拍子抜け。橋部敦子は、政治的ディベートが書けないなら山本むつみ先生に相談すればよかったに。めでたしめでたしみたいなノリを見て、『八重の桜』のファンなら「江戸が無傷なかわりに会津が犠牲になったがな」と思うだろう。

とにかくBGMがダサい。うるさい。幕末滞在の残り時間表示のCGがどうも芸がなく、音がうるさい。柳田っちの私服のカラーコーディネートのセンスに納得できない。

海舟のなかの人は、昨年から「幼稚ぶりっ子で登場して最後に理想を叫んだりなんか誓ったりする役」専門アイドル俳優をめざしている疑惑がふつふつと湧いてくる。『平清盛』での圧巻演技が気に入ったから勝海舟を見に来た方々には、いろいろ申し訳ないとしか言いようがない。その方々には、ぜひ『敵は本能寺にあり』を見ていただきたい。2007年のテレ朝・松竹制作ドラマで、tv-asahiでたま~に、時代劇専門チャンネルでは2~3ヶ月に一度くらい再放送している。原作は加藤廣の『明智左馬助の恋』(信長の描写は同作家の『秀吉の枷』による)。金子成人がそつなく脚色。2008年に亡くなった三村晴彦のおそらくは最後の監督作品。玉木は威圧感と格調と切れ味をもって信長を体現。脚本も演技も、妙なうけねらいやおちゃらけた要素は皆無である。乗馬技術はともかく、本質的な時代劇演技のうまさは7年前のほうがずっと上なのだ。本人の意向とはうらはらに、かならずしも人好きはしない信長や義朝のような役を演じるときに一番才能を発揮する役者であり……今後、この手の渋い役柄をオファーされても受けるかどうか疑問なので、時代劇ファンにはとりあえずチェックをおすすめするしだい。