『55歳からのハローライフ』第4回

このドラマの個性を作る大きな要素の一つが清水靖晃の音楽で、かならずしも登場人物によりそった感動をあおるタイプのものではなく、要所要所で異化効果をもたらしている。
過去3回は、主人公より識見豊かなアドバイザーが客観的な意見を語ることで、これまた視聴者を主人公の「気持ち」からちょっと離す効果があった。今回はやや趣向が変わり、特定のカウンセラーは登場しない。祖母が昔語った言葉と、古本屋と下総の世間知が、部分的にその役割を果たしているくらいだ。

根なし草のように生きてきた男が、首元がすっきり美しい上品な女と老いらくの恋に落ち、失恋するが、かわりにあらたな天職らしきものに巡り合う。ホワイトカラーの夫婦を描いた前3回とはちがった趣の佳作である。

一人のときはモノローグが絶えず、彩子の前でも延々語り続ける下総には、内にかかえた寂しさが感じられるのだが、中盤ファミレスで彩子が何事か告白する段になると、実は彼女の方が孤独だったのでは? とドキリとさせられる。

彩子を思いきれない下総は、トラックを借りて営業所を出発する。目的地に到着するまでに、どんどん日が暮れてゆく。見る側の予想を超える時間の経過を表現することで、緊迫感、不安感が増幅する。結局、二人は会話をかわすものの、女が辛辣な言葉を発する。「何がしたいんですか?」しょせん、自分の満足のためだろう、という見方。

村上龍の原作が優れているのか、大森寿美男のセンスが鋭いのか、忘れがたい台詞が多い。
「さみしいんは、しゃあない。自分がやりたいことを、やらなあかんで……な?」
「誰にも言わない。本当に言いたいことは、誰にも言わないんだ。本当に言わないし、誰にも言われない。そんな人間が、この先生きてる価値なんてあるのか?」父も子も寂しい人生を歩むが、それを変えねばならないというお節介なメッセージがないところがすばらしい。
「おばあちゃん、ありがとう」男の目に光が宿る。

最後の最後にサブタイトル『トラベルヘルパー』の意味が判明する。下総が若くしてトラック運転手の仕事を選んだのには、生理的DNA的(?)な理由があった。このあたりも、前3話に出てきた夫たちとは異なるところで、金銭面以外でも仕事と生きることが不可分な下総の人生はそう捨てたものではなかったし、これからいっそう目に見える形で人を助ける職業人になっていくだろう。


小林薫は、1950年代生まれのスターのなかで、「またか」という芝居をしない貴重な俳優。男のわびしさ、滑稽さ、いじらしさを余計な力みなしに魅せてくれた。かっこつけたいけど、控えめなええかっこしいで止めておく描写もいい。古本屋の親父を演じた麿赤児も、顔面迫力のわりにはあっさりした役柄で、いい味を出していた。スーパーで再登場した原田美枝子が晴れやかな笑顔を見せ、中米の生活の充実ぶりがうかがわれる。

今回の演出は、『平清盛』であまり出来のよくない回を担当した中島由貴。心象風景中心のこのドラマは、彼女の適性に合っていたようだ。

来週は、ますます深刻な話になるようだが、このスタッフなら、安易な人情話に落とさないと信頼しつつ、来週を楽しみに待つ。