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『MOZU Season 1~百舌の叫ぶ夜~』Episode 10

津嘉山正種が影も形もないのはいささか残念だった。銃弾を打ち込まれた御仁が、そろいもそろってしかるべきダメージを受けないのがヘンであり、さらに百舌のはやにえ状態に落ち込んだ宏美が――あの角度で刺さったのに、どうやって抜け出したのだろう? ――ゾンビのごとく歩き回るのにも困ってしまう……宏美は強力な覚醒剤を打っていたと脳内変換するか。

この最終回、要は、公安省の実現を目指して室井がサルドニア大統領暗殺をもくろみ、宏美が和彦の敵討ちのために室井暗殺をもくろみ、前者は失敗、後者は成功、というストーリーであった。
全話通してみれば、倉木の妻恋いの記と新谷家の兄弟愛の物語、と言えるだろうか。字面だけだと、ハードボイルドっぽくないな。にしても、千尋の面影を追いかける倉木が踏み荒らした後にはペンペン草も生えないというか、荒れた刑事のおかげで死屍累々というか……。

津城の取り調べを担当する役者さんが、風貌、演技ともぴったりであった。こういう人が、いろんな作品で登用されますように。

捜査一課の面々が椅子を蹴って出動する場面で、うっすら筋肉馬鹿ドラマのにおいがただよいかけた気がしたが、ぎりぎりセーフ。考えてみれば、羽住英一郎は『海猿』を撮った人か。

顔が富士山のキャラぬいぐるみがビミョー……。

うまいと思ったフェイントは二つ。エレベーターで、室井と後姿が綺麗なCAが乗り合わせる。すっきりしすぎてるけど、もしや彼女は宏美では?としばし、視聴者をびびらせる効果はあった。大統領の歓迎式典で、すわ、娘が誘拐されたか?! と思わせて、テーブルクロスの陰に隠れて遊んでるだけだった。

倉木は娘を亡くしており
室井は娘が植物状態になり、いつか目覚めたらちがう日本を見せたいと願ってつまずき
大杉は学校でいざこざに巻き込まれた娘を励まして(おそらく)めげずに学生生活を送らせ、大統領の娘を体を張って守る。
こうしてみると、ほんとに大杉無双というか、唯一家庭の幸福のかけらはつかんでいるうえ、警察官として役に立ってるなぁ。

北九州の空港を使った大がかりなロケに唸った。初回のなんちゃってギンザ井筒屋前の爆発場面にも圧倒されたが、エキストラの人数は空港内のほうがはるかに多そうだ。撮影するとしたら早朝だろうが、何時間×何日かかったのだろう?

遠隔操作による爆発騒動にはらはらさせられたが、このドラマの特徴の一つである男同士の肉弾戦にもわくわくした。背広(スーツじゃなくて背広と言いたい)が板についた大人の殴り合いはよい(非現実世界では)。こういうのには、かわいらしい顔で低身長の青年を集めた事務所がかかわらないにこしたことはない。生瀬勝久が狂気まじりの知性や悲哀や意外な獰猛さを醸し出すうえに、アクションを見せてくれたのは大きな幸いである。『MOZU』は全体にうじうじめそめそした演出がすくないのが身上だが、室井が発砲するさいの逡巡のなさは、まったく見ものである。「俺がトップに立ったら、お前を上に引き上げてやる。一緒にこの国の警察組織を変えようじゃないか」「倉木、この先に新しい未来があるんだ。正義に犠牲はつきものだ。千尋もきっと喜ぶだろうよ」。悲しみの混じる台詞回しに、レアティーズを演じた時の、「かわいそうに、オフィーリア、もう水はたくさんだろう。だから、涙は流さない」を思い出す。

『MOZU』ファンのなかでは、自分は新谷に興味が薄いほうだが、倉木の腕に抱かれた彼の最期は、宗教画のようにおごそかな場面だと感じた。

津城の「真相は闇に葬り去られる」には「これでいいのだ」のニュアンスもなくはないような。若造がドヤ顔で正義を語って締めるドラマに辟易している。頭脳明晰な津城が最強状態で終わるSeason 1は大人っぽいドラマだ。

「(父の真実を)見つけ出せる立場になりたいんです」と語る美希。「○○したければ、偉くなれ」ってことかな。

最終回で一番大事だったのは、妻が自分を裏切っていなかったことを知って倉木が目を赤くする場面だったらしい……アクションやSeason 2の陰謀のことで頭いっぱいにしてる自分は、ダメダメ視聴者だな……。ともかく、妻の愛を知るシーンで、安直な涙滂沱の演技に走らない西島氏は偉い。


ふりかえると、女で公安やらせるなら、一に片岡礼子、二に真木よう子、三に尾野真千子だということを再確認する。Season 2では、もっと美希が活躍するようで、楽しみだ。原作にくらべると、ドラマは倉木は妻>美希だし、美希は父>倉木。今後、これが変わってくれないと、恋愛面があまりにものたりない。原作の美希は悪ぶった中高生相手に凄みきかせる貫禄あるお姉ちゃんだったんだが、そのへんはどうなることやら。

かなり重なるスタッフ、キャストによる『ダブルフェイス』は、蒼井優演じるオリジナルキャラを投入したことで、やや失速した感がある。Season 2もそのへんが気がかりだ。

国内の権力批判みたいなことに重点が置かれて、このままいくと自家中毒的なドラマになってしまうところ、次からは国境をまたいだ陰謀も描かれるようで、ほっとした。今度こそ、倉木にも国家にたいする視点が出てきてほしいものだが。ダルマの正体はなんだろなっ? あやしげだった奥貫薫は結局、ふつうの友人だったということか。

このメンツで門田隆将によるノンフィクション『狼の牙を折れ』映像化を希望する。NHKや朝日では、過激派よりのねじくれたドラマにされてしまうので。

民放の連ドラで、ここまでハイレベルで脚本、演出、BGMが拮抗した作品は、自分のかたよったドラマ視聴経験では初めてだ。4年ぶりに連ドラDVDを買おうかと思案中(ついでに『風林火山』も)。地上波夜9時放送の限界に挑戦した羽住監督をはじめとするスタッフに拍手。暴力シーンについていろいろ取り沙汰されているようだが、子供みたいな顔の女ジャーナリストが性的被害に遭わないだけでも、良識的と言うべきか、時代は変わったと言うべきか。あるいは、羽住氏は、男女のエロチシズムにさほど重きを置かない人なのか。


まったく当てにならない記憶では、原作は倉木が主人公としてどっしりまんなかに構えていたような気がするのにくらべ、ドラマはもうすこし俯瞰的な作りになっていた印象だ。極私的には、西島氏の真骨頂は、映画『帰郷』、『休暇』、ドラマ『蛇のひと』(WOWOWオリジナル)だ。アクションものでは『ダブルフェイス』の森屋のほうが能動性を感じた。いずれにせよ、映画俳優として真摯に演技と向き合ってきた人が、重量感のある『MOZU』というドラマを代表作に加えることができてよかったと思う。

芸達者ぞろいのキャストに向けて、あえて演技賞を出すなら、公安幹部の貫禄、頭脳の表現も滑舌も抜群だった小日向文世生瀬勝久
ほかにもかっこよい生瀬氏を見たい人のために、若者がベンチャー企業を立ち上げるドラマ『カンパニー』(1996年)の再放送をNHKにお願いしたい。主役は椎名桔平だが、生瀬勝久森口瑤子と3人そろって若き俊英のお芝居が魅力的だった。生瀬が(たしか)山岳部の後輩である椎名に「お前は、困難に直面すると足がすくむ」と言い放った場面が印象に残っている。

*おまけ
WOWOWでSeason 2直前、スペシャル対談を視聴。真木嬢はかなりおとなしめ。西島氏は、少々病んで凶暴な刑事を演じた人とは思えない、坊ちゃん育ちとおぼしき柔和な笑顔で話しぶりも穏やかだった。香川氏は、いわゆる知的レベルが高い人というのは知っていたが、芸能IQのほうも相当高いようで、出過ぎているという印象をまったく与えずに対談をうまくまとめ、ユーモアまじりに広告マン顔負けの告知をしていた。