『ロング・グッドバイ』第1回『色男死す』

魔界・上海かと思わせる紫煙たなびくキャバレーの場面から、(『MOZU』をのぞくと)民放ではまずお目にかかれない映像美にひたった。この作品世界にもっとも寄与しているのが撮影、照明班なのに、公式HPでちゃんと紹介しないのは失礼だ。すでに『白洲次郎』や『あまちゃん』で有名な大友良英はさすがに名前が出ている。
こんな濃厚な作品を作ろうと考えた城谷厚司CPに感謝。演出の堀切園氏は、やりたいようにやれて幸せだろう。『七つの会議』では趣味に走りすぎている感があったが、今回はムードが大事なチャンドラー作品ということで、アクセル全開でいってもらいたい。
舞台を原作のアメリカから日本に移した時点で、どうしたってマチスモは緩和されてしまうのだ。もっと骨太なマーロウが見たい方にはディック・リチャーズ監督の『さらば愛しき女よ』(1975年)をお勧めしたい。主役のロバート・ミッチャムの巨体、スリーピング・アイ、眠たげなくぐもった声で、自分のマーロウのイメージは固まってしまった。退廃的なロサンゼルスのたたずまい、シャーロット・ランプリングの毒婦っぷりも見もの。

渡辺あやの脚本は、ほどよく古い日本語を使っている。清水俊二訳しか読んだことがないし、それがはるか昔なので、このドラマが村上訳を下敷にしているからよいとか悪いとか、まったく判断できない。

主役がナレをやったら困るなと思っていたが、滝藤賢一が担当でよかった。浅野君の台詞キャッチボール能力はあいかわらずで、『新宿鮫』からあまり進歩していない疑惑が……。長所はつるっとしたテレビ俳優の顔をしていないところで、黙っていても雰囲気がある。保に誉めそやされるほど、人間的なふくらみを感じさせないのはやや残念だが、このドラマはスタッフワークが大事なので、次回からもあまり不安はない。
初回は、半分以上綾野剛の独り舞台だった。ヒロイン属性とやらに熱中するタチではないが、こうして渡辺あやに気に入られ、NHKからちょくちょくお呼びがかかるのだから、彼の俳優人生は前途洋洋ではないか。
平清盛』では無駄遣いに終わった遠藤憲一が、今度はもうすこし生かされそうで楽しみだ。
次回のタイトルが『女が階段を上る時』。大昔、そんなタイトルの成瀬巳喜男映画があったような……。

今後二週間は、木曜日に『MOZU』に痺れて金曜日に『神谷玄次郎』見てにやにやして、土曜日に『ロング・グッドバイ』に陶酔して日曜日に『官兵衛』見て気が抜けて、のローテーションが待っている。そのあとは『MOZU』と『ロング・グッドバイ』以外、見るべきドラマがなくなるわけか。