フィギュアスケート世界選手権(男子・EX)

贔屓の町田樹選手がSPで首位に立ち、フリーでもPBを出し、地方大会を勝ち抜いて世界選手権初出場にして銀メダル。これをめでたいと言わずして何をめでたいと言うのかという話だが、マスコミはあいかわらず特定スター偏重報道なのが不快。「町田、僅差で銀」とか「SPは町田が圧勝するも、フリーで羽生が大逆転」みたいなタイトルはなく、NHKニュースもあたりまえにチャンピオンが決まったみたいな報道ぶりであった。スポンサーがついてないのと、アイドル的な売りやすさでライバルに負けるのが大きいのか。どこぞの会社、それもできればパチンコと金貸し以外の企業が支援の手をさしのべてほしいものだ。フリー滑走終了時の、大西コーチとミルズ氏の表情だけでも本人はじゅうぶんと思っているかもしれないが。
解説者は、「小塚はわずか三週間の準備期間ながら健闘した」と称えていたが、絶好調の時のパフォーマンスを知っている身としては、フリーは残念だったというのが偽らざる心境だ。五輪では不調だったアボットが、今回は美しいスケーティングで魅せてくれた。フェルナンデスのプログラムを高橋大輔で見てみないなどと思う。

スケーティング以外の選手の姿にさほど興味がないので、録画してもインタビューはたいていすっとばすのだが、今回は珍しくまじめに見た。選手の皆さんは、素人みたいな民放アナ相手に丁寧にお話していて偉いと思う。あの女子アナたちは、大学受験でもTV局受験でも難関を突破してきた知的レベルの高い若者であるはずなのに、相手に投げっぱなしの「これで世界選手権も終わりましたが」とか「今のお気持ちは」しか言わないのは、局からの指令なのだろうか。言葉遣いを変えただけで内容は代わり映えがしない質問を繰り返すのにも苛々する。フィギュアのTV中継があるたびに「日本は駄目。欧米は~」をやりたがる人がいるが、すくなくともアメリカ三大ネットワークのフィギュアの扱いは日本以上に三文週刊誌的で、しつこいパパママ密着取材がくっついてくるので、幻想は捨てたほうがいい。
町田選手は、「来年はこれ(と、羽生の金メダルを指して)目指します」。おお、目指してくれ! 頼もしいかぎりである。小塚選手も続投の方向らしくて嬉しい。
なにかと悪評高いフジが国旗掲揚を中継したのは意外。

EXは二時間弱放映された。リプニツカヤが練習のため学校にろくに行かなかったことを明かす映像が流れた。ベルリンの壁崩壊以前の共産圏ではそれがあたりまえで、東欧の選手が「人並みに勉強してないから、国際的なパーティーで自由主義諸国の人から話しかけられるのが怖かった」と告白したインタビューを読んだことがあるが、今でも状況は変わっていないのか。気位の高いシャムネコみたいな彼女はすでに人気抜群だ。このまま無事に伸びてほしい。
ルシーヌのスーパーマリオ風ダンスは愉快。大人のムードたっぷりのサフチェンコ/ソルコビーはこれで引退だとかで名残惜しい。来季のペアは世界的にぐっと若返るわけだ。町田の『ロシュフォールの恋人たち』は初見。ステップからのジャンプがたいへんスムーズで、美しいパフォーマンスだった。解説者も言うとおり「上半身の使い方がよい」のも彼の特長で、どれほどスタイルがよくても手足の動きがばらばらだったり、足の運びのコントロールで手いっぱいなタイプには自分は惹かれない。ダンス・チャンピオン、カッペリーニ/ラノッテのあっけらかんとしたお色気ダンスはさすがラテンの国のお姉さんとお兄さんという印象。3組のペアがトリプル・デススパイラルをやってくれた! アナウンサーの「選手からの感謝」の押し売りはお腹一杯。浅田選手は、日本スケート連盟に大事にされたとは言いがたい状況で、ここまで日本女子フィギュアを牽引してきたのだ。今後の去就は、どうか本人の意向を尊重してあげてほしい。
男女とも日本のシングルは世界のトップになった。ペアの発展のために、将来大男になりそうな少年スケーターの発掘を強く望む。
小塚選手のEXも見られてよかったのだが、高橋大輔の出ないEXはなんとも物足りない。アイスショーで6年ぶりに『バチェラレット』を見てみたい。当時あの若さでぬめり気のある演技だったから、今ならもっと濃厚に踊ってくれるだろう。