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いまさら『あまちゃん』を振り返ろうとして

どれだけ思い出せるか心もとないが、『今年、印象に残ったNHK番組』に入れなかったので、無理やり記事にしてみる。

『カーネーション』終了後一年で、人生二度目の朝ドラ視聴開始。ドラマ書くなら夜10時か11時のイメージしかないクドカンが、下ネタに走らずにどこまで朝のドラマをやれるだろうという不安半分、期待半分で臨んだが、半年間おおいに楽しませてもらった。おそらくは計算しつくされたであろう”単純そうに聞こえる”素っ頓狂なオープニングテーマ。躍動感のあるカメラワーク。フレッシュな能年玲奈を主演にすえた青春ドラマは表の顔で、裏の顔はキョンキョン演じる春子のちょいちょい重苦しい女の一代記でもあった。
アキがかつての子供部屋を見つけるところから、じょじょに"母の人生の発見"が始まる。昔のレコードにたとえれば、東京編からは、A面が出だしはシビアながらユーモア交じりの、アキの東京奮闘物語、B面が若き春子の青春の蹉跌物語。あいまに娘時代の夏と橋幸夫のなれそめと、40(?)年後の幸せな再会をはさみ、強引に言うなら女三代におよぶ重層的な大河物語だった。春子の救済のおおもとのきっかけが、飽きっぽくてあまり頭を使わないで生きているアキの行動からきている、という作りも特徴的。
小ネタ満載がクドカンの特徴で、それはそれで楽しめたり、よくわからなかったりしたが、元ネタ探しは本筋ではない。『あまちゃん』は、含羞の人クドカンによる、暖かな人間賛歌である。

ザル頭なりに、まだ忘れていない場面をいくつか挙げてみる。
ダントツ:震災当日の回
震災ドラマとして見ていたわけではないし、震災がらみで妙なメッセージを打ち出さなかったのがこのドラマの品格だと思う。それでも、一番印象に残ったのはこの回。東京でうろたえるアキたちの節度あるドキュメンタリー的な映し方。そしてなにより、北鉄の急停車以降の大吉の描き方がいい。自分が悪いわけでもないのに、ユイに「ごめんな」と謝る(日本人だなぁ)。なにはともあれ、乗客の安心安全を第一に心がける。とんでもないことが起こったらしいと悟り、『ゴーストバスターズ』を歌ってひるみそうな心を奮い立たせながらトンネルを進む。困難な状況下で、ごく普通の人間が必死に任務をまっとうする姿に弱いので、この一連の描写がたまらなかった。この回まで、特定の登場人物に感情移入することはなかったが、男衆のなかでまっさきに思い浮かべるのは今や――プライベートでどんだけしょーもない奴でも――大吉。あの日、日本にはおおぜいの大吉つぁんがいたのだ。

2位:太巻たちが春子に「悪かったな、春ちゃん」とわびる場面。20年におよぶ恩讐の彼方に……。年月の重みを描いてきたからこその感動場面。『八重の桜』がこれよりさらに重みのある感動の和解をやれなかったのは、大河スタッフの怠慢。

3位:アキの初めての本気採り(やっと主人公登場)。ヒロインの成長自体もすがすがしかったが、それを見守る先輩海女たちの顔がよかった。渡辺えり、木野花、片桐はいり、美保純が、体張って生きてきたプロフェショナルな女の包容力ときびしさを感じさせて痺れた。

以下、順不同。
*娘や孫の上京を、大漁旗を振って見送る夏。シャイなクドカンがやっと出してきたカタルシスがはんぱない。来るものは拒まず、去る者は追わず、無駄口はきかず。春子に対しては言葉足らずがあだになったにせよ、終始かっこよいバアサンだった。女優で古老の風格を出せるのは宮本信子が一番?

*運転再開した北鉄を走って追いかける子どもたち、笑顔で手を振る大人たち。北鉄の疾走感。BGMの祝祭感。

*アキが大人たちに「あまカフェまたやろう」と言い出す場面。アキがニュースキャスターみたいな偉そうな口調で、新聞やテレビの受け売りめいた行政批判を始めたら興ざめもいいところだが、自分の目で見たこと、自分の肌で感じたことをもとに、シンプルな言葉で皆の背中を押したのがいい。現実的にできることからやるだけ! ドラマ部門がこんな肯定的メッセージを発しているのに、ニュースや特番は批判ありき告発ありきで復興を阻害するような報道姿勢なのは困ったことだ。

*東京からはるばるやってきたミズタクとアキの口論と、忠兵衛と組合長の会話がクロスするシーンのおかしさ。クドカンは、舞台ではさんざんああいうので笑わせてきたのか?

*まめぶ普及活動のため、いったん町を出るあんべちゃんと春子の別れの場面。心のなかのわだかまりが解消してよかったと告白するあんべちゃん。人間、再会してみて初めてわかることがあると思わされた。片桐はいりの”地の塩”感に打たれる。目立たず黙々と働き、何度でも無知なアキの言い間違えを正すあんべちゃん。彼女と大吉は、声なきよき日本人カップル代表。

*最終回、トンネルから光のなかへ駆け出していくアキとユイ。半年間、失速することなく走りつづけたドラマにふさわしい幕切れだった。まだまだ終わらない彼女らの人生に幸いあれ!

ほかに印象に残ったところ。
*ジオラマの使い方は当分忘れられい。
*鉄拳のアニメの使い方も秀逸。テンポがよくてユーモラス。
*俳優陣について……能年には性的なにおいがない。少年じみた、そして小動物じみたフレッシュな魅力が役にぴったりだった。キョンキョンは、一部で反感を買う、不機嫌な”現実的”な母である以前に、夢に挫折し”母にじゅうぶんかまってもらえない娘”を引きずった中年女を好演。一見、気のいい大男ながら、ちょいちょい毒のあるつぶやきで笑わせてくれた荒川良々。優秀なスパイス俳優と呼ぶべきか。まさか朝のテレビに出るとはびっくりの安藤玉恵。彼女の生々しさの使い方が絶妙だった。出戻りで、ほかの海女たちより視線はクールだが、アキを応援する心は熱く、ヲタクのこだわりを持つ花巻を演じた伊勢志摩もよかった。女優達も達者だが、中年以上の女をステレオタイプにはめずに描けるクドカンがまず偉い。でんでんと木野花の、(じつは辛酸を舐めてきた)夫婦のかわいた明るさ。「いいやつなんだが、いらっとさせるサムスィング」を体現した尾美としのり。嘘くさく完璧主婦で始まって、心情さらけ出して人間らしくなった奥様を演じた八木亜希子。プライムニュースのキャスターより女優のほうが向いているかも。年齢不相応に端正で、どこか冷たい役を与えられがちな橋本愛が、年相応のあほっぽさ、かわいさのある役をやれたのもよかったと思う。ほかの若い皆さんもよかったけれど、全体としては、不完全な人間のおかしみを醸し出した中高年の芸達者が印象に残る。