今年のBS

BS1とBSプレミアムの番組については、24日の記事でふれたので、それ以外について。

BSフジ
『お伊勢さん』
三重テレビ、渾身の伊勢神宮式年遷宮特別企画 。出雲大社だけでなく、近隣地区の自然、歴史、風俗、雅楽部養成のようすなど、幅広く網羅した情報番組。はじめて聞くことばかりでためになったような気がするが、終わって三ヶ月近くたった今、ザル頭からほとんど抜け落ちている。20年後にまた同種の番組が作られたら、新鮮な気持ちで楽しむことができそうだ。

『猫侍』
浪人と猫のゆるゆるなヒューマン&アニマル・ストーリー。セピア調の画面や暖色を強調した画面は見たことがあるが、こんな抹茶ぶっかけたような画面作りは初見。日曜夜11時、30分の番組だから見ていられた感じ。北村一輝をはじめて見たのは大河『北条時宗』だったが、その時の妻役、寺島しのぶともども、舞台『マクベス』で共演してほしいと思ったものだが、そういう方向には向かわなかったようだ。『天地人』の失礼なあつかいに比べれば、今作の主演はまだよかったのではないか。はやく最終回の録画をチェックせねば。


WOWOW
ペイチャンネルの強みで、働き盛りの男性視聴者の鑑賞に耐えるドラマ作りをめざす自由を獲得している局だが、2009年の『空飛ぶタイヤ』を超える作品制作には苦戦している。今年1月に終了した『天の方舟』では、ヒロインが会社の不正について延々懺悔しつづけるので、こちとらあくびが出そうになった。

『LINK』
篠崎絵里子オリジナル脚本による意欲的な群像劇。信用金庫の現金輸送車襲撃をきっかけに、主人公のボディーガードをはじめ政治家、検事、教師、銀行員たちの運命が絡み合ってゆく。シリアスな面々のなかに混ざったとぼけた浮気カップルが、危険に巻き込まれるかと思いきや、おまぬけな幕切れを迎えたのが笑えた。話を発展させるためとはいえ、信金の女性行員のやることなすこと30過ぎにしてはあまりに幼稚で、かなりいらいらさせられた。ドラマ終盤になって、人と人との絆があれば不幸な事件は起こらなかったかもしれないとかいって"LINK"を出してくるところが、ちょっと強引。なぜ綾野剛が車椅子なのか、とちゅうで想像がついてしまった。大森南朋が渋くてかっこよい。こういう俳優を主演にできるのはWOWOWならでは。

レディ・ジョーカー
同局、同じ高村薫原作の『マークスの山』に引き続き、監督:水谷俊之と鈴木浩介、 脚本:前川洋一、音楽:澤野弘之のメンツで緊張感あふれる手堅い作り。オリジナルでもこの手の作品を!

今年は、政財界がメイン舞台ではないドラマにインパクトのあるものが多かった。原作付きのドラマはいずれも傑作だったが、原作自体は読みたいジャンルではない。公式を見ると、テレビなのに「演出」ではなく「監督」となっている。やはりながら見用ではない「映画」として作っているという姿勢の表明か。とにかく、監督たちの乾いた演出を見せる力量を信頼していたからこそ、見る気になれた作品ばかりだ。

『贖罪』再放送
~~「つぐないって、なにをすることなのかな?」
  美少女殺害事件に遭遇した少女たちが15年の時をへて、運命を狂わせていく
湊かなえ原作。鬼才・黒沢清の脚本と演出を堪能した。本放送時は避けていたが、一挙再放送を録画してみたら、はまってしまった。小学生の娘を殺された母を演じるのが小泉今日子。この作品に関しては、キョンキョンと呼ぶのはふさわしくない。娘といっしょに放課後の小学校で遊んでいたのに、娘をほったらかして帰ってしまった4人の友だちに、なんとかして罪をつぐなわせたい、殺人犯もつきとめたい、と思いつめたブルジョワ風の中年主婦を演じて凄みがある。最後、"贖罪"すらかなわぬヒロインの地獄に戦慄した。追いつめられた娘の元友人たちの行く末が四者四様。

ヒトリシズカ』再放送
~~次々に発生する5つの殺人事件。事件を解決するべく捜査を進める警察だが、
  それぞれの事件の奥には、共通するひとつの深い闇があった。
  そして、その闇の中に見えてくるひとりの少女の姿。
誉田哲也原作。平山秀幸の演出をテレビで味わう贅沢! 安川午朗のサスペンスフルな弦楽器によるエンディングテーマが忘れがたい。夏帆が高校生、高級クラブのホステス、コンビニ店員とさまざまな顔を見せる。どことなく不安そうで浮遊感を漂わせながらも、敵と対決する場面ではきっちり凄みのある演技を見せるのには驚かされた。ヒロインが徹頭徹尾たった一人で戦いつづける救いのない『贖罪』とちがって、こちらの主人公には守るべき対象が見つかるのが救い。黒沢も平山もなれ合いを拒絶する映画作家だが、しいて言えば平山のほうが温かい。

『ソドムの林檎~ロトを殺した娘たち』
~~ネットで知り合った男性たちへの詐欺・殺害容疑で捕まった女の罪とは?
  やがて愛憎の果てに変貌していく人物たちの深層心理が事件の真相へと導いていく
  美貌ゆえに偽りの愛を受け、それを憎んで自らの顔を醜く整形した女性・恵
  対照的に、醜さゆえに愛されないと思い、美しい顔へと変貌した女性・万里
廣木隆一監督、荒井晴彦&荒井美早脚本。オリジナルドラマとしては、これが今年のナンバーワン。近年ニュースをにぎわせた結婚詐欺&連続殺人事件の犯人を彷彿させる恵を演じたのが寺島しのぶ。役柄はうまく男に媚びてたらしこむ女だが、演技は視聴者への媚がない。こういう演技は怖くてできない女優が多いのではないか。法廷に立つ恵が世間の良識を嘲笑する場面など、主婦のクレームを恐れる地上波ではまず流せない激しい台詞が聞かせる。美しいが夫の不実に悩む作家の妻と、劣等感を抱いて整形する万里の母子の葛藤なんて、本来あまり見たくないタイプの話だが、演出はべたつき、もたつきとは無縁。万理を演じる木村文乃が、鬱屈を抱えながら終盤救われる若い女性を演じて説得力がある。この局以外なら、NHKの丁寧な作りのドラマで見たい女優だ。
隠れキリシタンについて、無知だったことを思い知らされた。日本のドラマとしては、ここまで宗教に踏み込んだ作品はまれではないか。丁寧なカメラワークが、島の洞窟の、恵一家の愛憎をすべて飲み込んだような深淵な佇まいを映し出す。

『鍵のない夢を見る』
うかつにも今日まで知らなかったのだが、辻村深月の直木賞受賞作が原作だとか。だからって読もうと思わないけど。次から次へとちがう夢を追う恋人にしがみつく女い女性、実家近所で起こる不審火が、自分を片思いする男の仕業ではないかと悩む女……。全5話のオムニバスドラマ。各話1時間でしっかり起承転結がおさまっていた。正直、得意分野ではないのでもっと長時間やられたら、とちゅうで挫折したかもしれない。救いのない話、サスペンス風味、苦笑まじりに見終わる話、と予想外にバラエティに富んでいた。主人公目線でシリアスな被害者ものとしてスタートしながらも、コミカルなBGMもあいまって、実は本人の思い込みにすぎないのではないか、ととちゅうで視聴者に視点の方向転換をうながすような演出がたくみ。

『パンとスープとネコ日和』
~~笑う時は誰かといっしょだ
群ようこ原作。松本佳奈監督と荻上直子の関係は知らないが、『かもめ食堂』や『めがね』のスタッフが参加しているせいか、雰囲気は荻上作品に似ている。小料理屋を切り回していた母を亡くした、出版社勤務の女性。いろいろ思うところがあり会社をやめてパンとスープの店を出し、日々小さな発見を重ねてゆく。まったりゆるゆる、ほのぼのできた。ながらく、気張った芝居しかできないのかと疑っていた塩見三省が、『あまちゃん』と本作で、穏やかに主人公を見守る役回りを演じていて新鮮味を感じた。『猫侍』の半分も猫は活躍しない。

『かなたの子』
角田光代原作。大森立嗣監督。
深い霧のなか、おのれの罪深さを自覚した男女が苦しげに富士山頂をめざして歩みを進める。
金銭や愛情を奪われた人間のむき出しの魂を撮らせたら、大森監督が当代一かもしれない。見終わってから、タイトルに慄然とする。藤村志保に言わせる「いっしょにいると、おまえを許してしまう」という台詞の重み。荒涼としたモノクロ写真を連想させるMONO作曲のピアノ曲も耳に残る。富士山世界遺産登録後、初のテレビドラマ作品の撮影となったそうだが、雲海の美しさは圧倒的。

『大空港2013』
監督と脚本:三谷幸喜
三谷幸喜は、舞台≧ドラマ>>>映画。
羽田行きの便が、天候不順により急きょ松本空港に着陸。離陸までの一時間余に起こる、みみっちいてんやわんやを描く。日に二便しか出ない地方空港を「大空港」と言い張るタイトルがまず笑わせる。ハリウッドのエアポートシリーズのパロディのつもり、というにはあまりに小さな人間劇の連続。三階建てのビルでワンシーンワンカットを撮る無謀な企画で、メーキングを見てすっかりスタッフに同情してしまった。そりゃ、ライブ感重視という一点のみ考えればいい考えかもしれないけれども……。いつもは暇なグランドスタッフが、六人家族をアテンドする過程で、いつの間にか全員の秘密を握ってしまう。登場人物のやることなすこと、いちいちじれったくて笑える。上司からのプロポーズを受けたくなかったグランドスタッフが最後に「あの家の人たち、いろいろあるけど、家庭を壊したくないのは一致している。結婚ていいものかもしれない」と思い直すが、直後……。
三谷お気に入りの神野美鈴が途方に暮れる主婦を手堅く演じる。中年のキャストにちょっと無理があるアクションまがいをやらせるのも三谷喜劇の特徴。意外性だけで、人間これだけ笑えるものかとあらためて思った。ごたいそうなメッセージを出したり、お涙ちょうだいに走ったり”しないところ”も彼のいいところだ。人間てしょうがないなぁ、とさんざん笑った。愉快な気分で年を迎えることができそうだ。