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今年の映画

『渾身』(錦織良成監督)
隠岐諸島伝統の古典大相撲を描いた作品。一月に見たのでほぼ記憶のかなたになってしまった。おぼろげに印象に残っているのは、豊かなローカル色、主演の青柳翔の茫洋とした魅力、新人監督ではないのにややぎこちない編集。

探偵はBARにいる 2』(橋本一監督)
誰でもすぐ犯人がわかってしまったパート1に比べると、謎解きではこちらが楽しめる。ただ、閉鎖空間でのアクションシーンに時間を取りすぎてテンポが悪い。古沢良太の脚本も、前作ほどの冴えはなかった。このシリーズの昭和のノリを、若い観客はどう感じているのだろう。

謝罪の王様』(水田伸生監督)
脚本、主演はクドカン。謝罪をネタにしたあまりにも日本的なコメディ。各エピソードのつなぎ方や人の出し入れはさすがだが、例の決めのフレーズは三回以上聞かされると、げんなりする。おもしろかったけど、これまで見た彼の脚本による映画8本のなかでは、水準以下。プロフィールを見て『カムイ外伝』が崔洋一と共同脚本と知ってびっくり。

『そして父になる』(是枝裕和監督)
主人公夫婦と新しい息子のマンションシーン。とつぜんの賑やかなBGMに違和感がぬぐえずにいたら、子供の本心暴露シーンのための前ふりだった。ここの鮮やかな演出が一番印象に残る。主人公の子供への接し方が、嘘くさくなくゆるやかに、もしかしたら変わっていくかもしれないな……くらいで終わらせる、ほどの良さ。フジ製作というとろくな映画がないと思っていたが、なぜ福山氏主演だけはちがうのか。映画を見た人が連ドラ『ゴーイングマイホーム』にも興味を持ってくれたら嬉しい。

上記三作にお気に入りの尾野真千子が出演。悪くないんだけど、『クライマーズ・ハイ』に比べると、力量を発揮しきるような役は与えられなかった。来年の『神様はバリにいる』では、もうちょっと大事にしてもらえるのか……してもらいたい。男優のほうの贔屓ともどもよろしくお願いしたい。今んとこ、ほかに期待できるのがないので。


『風立ちぬ』(宮崎駿監督)
「沈鋲頭」という名称を初めて知ったことが一番の収穫、と言ったら語弊があるが、これは主人公がとりつかれた飛行機のフォルムの美しさと性能を語るうえで、欠かせない要素だ。映画自体は、宮崎監督の「”美しいものを作りたい”という熱狂」(堀越二郎著『零戦 その誕生と記録』文庫版。小泉聰による解説より)の体現であり、それ以上でもそれ以下でもないと思う。サバの骨の美しさから設計のヒントを得る場面もおもしろく、もう一つこの手のエピソードがあってもよかった。そうすると、恋愛パートが減るからだめなのか。外国人に日本批判をやらせるのがしゃらくさいが、まあ長すぎなくてよかった。陸軍、海軍がわいわいと会議をやる場面を、それぞれユーモア交じりに数秒ずつ流していた。あれが監督の持つ両軍のイメージなのか。零戦搭乗員が全員死んだと誤解させかねない発言はどうかと思う(詩的な表現なのだと擁護する人がいるのは知っているが)。長髪のエース岩本徹三は昭和38年まで、隻眼の坂井三郎は平成12年まで生き抜いている。
8月はNHKが例年どおり、結論ありきの老人いじめみたいな特番を作っていたようだ。アメリカのヒストリーチャンネルは、数値化されたデータにもとづいて日本の戦闘機や戦艦を世界のベスト10に入れている。日本全体が平静にあの時代を振り返るまであと50年くらいかかるのだろうか。

恋愛パートについて。ヒロインが男に都合のいい女すぎるという声があるようだが、ドラマや少女漫画に出てくる男の嘘くささを思えば、おあいこではないのか。だいたいあの時代の女性には、仕事より自分を優先してくれとかレジャーに連れてってくれとか主張する役割は与えられていない。問題の喫煙シーンは、二人の若い男女のわがままの、かわいらしい妥協点だ。

『飛べ、ダコタ!』(油谷誠至監督)
昭和21年1月、佐渡島に不時着した要人機〈ダコタ〉と7人の搭乗員を、村人がとまどいながらも受け入れ、最後は滑走路建設にも協力して、あたたかく送り出した実話にもとづいた映画。まじめで手堅い作りだが、監督は『牡丹と薔薇』とかいう、今作とは真逆のドラマで有名な人らしい。寒風吹きすさぶ佐渡の山も海も迫力満点。抑えた色調も日本映画らしい落ち着きを醸し出す。比嘉愛未は、ほぼすっぴんでも美しく、情感がにじみ出る。邦画界は、今後もこの女優さんの映画を作るべし。英兵と村人の軋轢がなさすぎだとか、ヒロインが無防備すぎるとか、気になる部分は、窪田正孝演じる青年が補って(?)いる。将来を期待され、海軍兵学校に入学しながら、訓練中のけがにより帰郷。鬱々と過しながらかつての敵国人への敵意をつのらせる設定がいい。若手俳優は、薄っぺらい正義を語る役よりも、こういう鬱屈した、地に足の着いた人間を演じたほうが、役者としても人間としても成長できるはず。劇中、何度か出てくるお約束のお説教台詞には、「あーはいはい」と思うばかり。
『渾身』と同じく、ローカル発の良心的な佳作として、人々の目にふれてほしい。

『すべては君に逢えたから』(本木克英監督)
ずいぶんと急ごしらえの映画だったようだが、"それにしては"映画らしくなっていたクチか。東京駅ムービーと銘打った割には、駅の出番が少なすぎ。もっときれいに魅力的に撮ってもらいたかった。六つのエピソードの組み合わせはスムーズだが、やはり一番印象に残るのは遠距離恋愛カップルの話。木村文乃は好演だったし、彼女の脚本部分に一番味があった。黒山社長は『ファミリーコンプレックス』の山室社長に比べると­­­­­ーー役者ではなく映画の作りの問題で­­ーー深みのない記号でしかない。泣きたい時のDVDとかいう話に、テレビで見た気持ち悪い"涙活(るいかつ)"を思い出してしまった。松橋Pの作品は『KIDS』と『MW』以外あまり好みではない。

 

『蠢動』を見られないのが返す返すも悔しいことだ。来年末にはBSで放映してくれ!