今年、印象に残ったNHK番組

まずは繰り言。『夫婦善哉』と『あさきゆめみし』の脚本家を逆にしてくれたら、前者をもっと楽しめて、後者は心置きなくスルーできたのに!
夫婦善哉
パンチのきいたBGMと潤沢な予算を感じさせるセットと衣装とエキストラから、大阪の人いきれが伝わってくる。冒頭五分で見る者を独特の濃厚な世界に引き込むだけでも、力のある作品だったと思う。ただし、藤本脚本には『平清盛』と同じ苦手なにおいがある。意気消沈する蝶子のところへ首になった女給がやってきて、口をきわめて罵る場面。共依存を一から十どころか二十くらいまで説明しまくる、夫婦喧嘩の場面。粋じゃないのがホントいや。ごひいきの尾野真千子は、芸者時代にお座敷をつとめる場面や、愛想よく客の応対する小料理屋の場面がいい。極端な喧嘩の演技ばかり宣伝してほしくなかった。ときどき、若いころの田中裕子なら、もっと内面から凄みをにじみ出せたのにと思ったが、今のアラサー女優でほかにもっとできる人は知らない。男のほうはサイコパス寸前というか、森繁が演じた柳吉のかわいげもなければ、暗い色気も感じなかったので、二人の腐れ縁に浸りきれなかった。
『あさきゆめみし』
薄桜記』がすばらしかったジェームス三木御大のオリジナル作品。日頃、脚本さえよければ役者はどうでも、と思っていても、今回ばかりは二話途中でギブアップ。前田嬢は『龍馬伝』では悪くなかったのに、今回はおすぎの物まねしてんのかと思うような声のうわずりっぷり。若手演技派に分類していた池松くんは、元気がない菊川怜みたいで冴えないし。「乳母日傘」がテロップ表示されて驚いた。だったら、ついでに意味も書いてあげればよいのに。ともあれ、時代劇の分野で、若い演じ手と若い視聴者を育てるのは急務なので、今作のような試みは続けてほしい。

『七つの会議』
原作未読。演出が堀切園氏。堅気のネジメーカーを舞台にしているのに、不安をかき立てるカメラワークや暗めの照明がか~な~り~『外事警察』っぽくて趣味に走りすぎ。私は好きだからかまわないが、あの重苦しい演出のせいで引いてしまった視聴者がいたとしたら残念。会社へのダメージもかまわず、正義のためにマスコミにリークというのが、自分が一番嫌いなやり方なので、最終話には乗り切れず。それまで主人公が進めていた、ひそかに可及的速やかに欠陥の可能性があるネジと新ネジを交換でいい、なんてやってるとドラマにならない? 八角の人物像には無理が感じられた。会議が七つ出てこなかった。池井戸ドラマとしては、今のところ『鉄の骨』が一番納得のいく展開だった。この手のNHKドラマはいつも音楽がいいけど、それも『鉄の骨』のずしりとした川合憲次作品が一番かっこいい。社会派ドラマとしては、極私的ナンバーワンは13年連続『バブル』(鎌田敏夫作)が不動の一位。

『太陽の罠』
1~2話はオリジナル作品の意気込みを感じたし、殺したはずの上司が生きていた設定がめずらしいのでかなりの好印象。その後、じょじょに復讐譚の浪花節の色合いが濃くなったのはやや興ざめ。西島君は『平清盛』にひきつづきお上手。1年前、フジでつまんない使われ方していた伊藤歩さんが、今回は奥行きのある役でよかった。伊武雅刀の返り咲き→主人公の退社決意の演出がぴりっとしていた。娘の進学、就職、結婚を考えたら、濱の奥さん形だけでも離婚しといたほうが……と思ってしまう心が汚れた視聴者である。瀬戸際に立った尾美としのりの台詞にはぐっときた。「俺の人生が終わる時、思い出すのは、きっと今なんだろう。若いころのことでもなく、家族との思い出でもない。人生を見直して俺が一番生きているのは、きっと今なんだろう。悔しいんだ。まだ終わらせたくない。奈落の底に落ちる一歩手前まで、全力で仕事がしたい」。大島里美は再来年の大河担当だそうだが、たまにこういう力のある台詞を聞かせてもらえるのだろうか? せっかくの場面をぬるいBGMが邪魔したのは残念。

『狸な家族』
最後の連休中の思わぬ拾い物。十五年ぶりに家に戻った俳優と家族のやり直しの話。半分以上、都会モンがビデオ撮影する形式で進むので、過度にほのぼのまったりしたテイストにならないところがいい。狭い人間関係を行き詰らせないために、「あれは狸のせいだ」でトラブルを乗り切る村の習慣が語られる。この手の世間知ってのにも、値打ちはある。会社を興し、そして倒産させてしまった男が女子高生を諭す場面にも、人生に裏打ちされた知恵が感じられてよかった。荒川良々はNHKでいい役もらってるな。山の風景は魅力的だったが、三好の急斜面での撮影はいかにも大変そう。一番の敢闘賞はカメラクルーかもしれない。ローカル発の45分ドラマは丁寧に作られていて心温まる。『恐竜せんせい』もすがすがしいお話だった。

『英雄たちの選択』
松重豊のナレーションが上手い! 『歴史館』のほうもこの人に代わってほしい。脳科学の先生が必要と思えない。宮崎の哲ちゃんは好きだし、ピント外れなことは言わないけど、歴史の専門家じゃないよね……。

緒方貞子スペシャル』
NHKが褒めるような人間は要注意と眉に唾つけて見ていたが、実績を残した事実はあるようだ。ドキュメンタリー手法として、最初の国連総会参加と難民高等弁務官着任のあいだをすっとばしすぎだし、最後にユーゴがその後どうなったのか描かないのもだめだと思った。あの世代のインテリ女性は、度し難いアメリカ崇拝に凝り固まった人が多い。途上国代表者の意見を尊重したというのが本当なら(いちいち疑り深い)立派なことだ。

『アジア立志伝』
月一が限度だと思っていたのに、毎週やるとは! 綿密に取材してるのだろうか?? 回数を減らして、もっと実のある内容にしたほうがいいのではないか。

オリバー・ストーンが語る もうひとつのアメリカ史』
淀長さんがストーンを嫌っていたのは知っていたが、なるほどドキュメンタリーも強引で偏ったプロパガンダ作品だった。たしかにアメリカは、北に気に食わない指導者がいれば行って暗殺をくわだて、東に栄えそうな後進国があればクーデターをあおり、南で二国間戦争が勃発すれば「もっとやれ」とけしかけ、ああいう国に我々は睨まれたくない。ただ、あの国がやらかした悪行には、ソ連に先手を打たれないためのものもあるという、大国間のバランスの話を無視しがちなところがいただけなかった。アメリカにあんな左巻きが生息していること自体に驚く。ただし、43~46年の米ソの関係が、刻一刻と変わるあたりの説明には説得力があった。

 

日本で三億円事件45周年関連番組が多数作られるのと同じように、アメリカほか数か国で、ケネディ暗殺50周年関連番組が多数作られた。あの人は過大評価されていると感じる人間にとっては、「ジョンソンのほうが有能だった」説に納得。