『クロコーチ』最終話

う~ん、主人公が長々と正義漢めいた弁舌ふるうシーンは好みでないし、前回まではあんなふうに一面的な正義を求める甘ちゃんではなかったから違和感がある。こういうところで、いきなり作品のトーンが変わってしまったのがやや残念だ。ラストを「警察だ~!」ではなく、利重剛小市慢太郎のシーンにしておいたら、ぐっと渋い大人向けマンガとして締まったと思う。

主人公二人は、自分らのもくろみがうまくいったとして、日本の治安がどうなるとか考えなかったのか? 『新宿鮫』の鮫島は、亡き親友に秘密を託されたが、暴露したら「日本の警察機構がふっとぶくらいの爆弾」だから、墓まで一人で抱えていかざるをえないと諦めていた。今回の二人の状況はそれとはやや違えども、並の成人の知性があったら全部暴露してやる!って方向に行くはずがない。黒河内なら、桜吹雪会の内部に入り込んで、したたかに生き抜き、改造できる部分を改造する、でいいんでは? 沢渡のことは横浜港あたりでこっそり始末しちゃうとかさ。当方、城尾の回し者ではないが、秩序を完全無視してはだめざんすよ。

沢渡は黒河内に背を向けた時点で拳銃自殺するかと思いきや、おとなしく逮捕されたので驚いた。でもって、最後に上層部に消されたとにおわせたあたりは、スタッフがこちらより一枚上手で、ポイントアップ。
ジョージと黒河内の関係が明言されなかったのは、尺足らずゆえなのか? 葉月マコとの関係も、とくに言及されなかった。ほかの被害者と彼女とでは、主人公の思い入れが違うような描き方だったから恋人設定かと思っていたのだが。そういう方面に深入りしないところも、この作品らしい潔さかもしれないし、彼女の死を語る黒河内がめそめそ泣いたりしないのもよかった。スターの演技力誇示のために、「泣き」のシーンを山場に持ってくるやり方は安易だから。

老いた大物役に、大スターではなく花王おさむを持ってきたところが意表をつく。脇のキャスティングは適材適所で、各人好演だった。とくに、こちらの予想以上の力を持つ男を説得力をもって演じた小市慢太郎利重剛はこれからも大切にされてほしい。
長瀬はワルくて熱くて、かといってべたつかず、終始魅力的な漢(おとこ)だった。『うぬぼれ刑事』の主演ぶりもよかったし、未見の『歌姫』、クドカン作品など、通の評価が高い作品と縁があるようだ。J事務所のトップスターのあの人より、作品の質的には恵まれた位置にいるのではないか。今後はこの人の出演作は要チェックだな。
純真な東大ちゃんを演じた剛力さんも○。本人の資質より周囲の売り方のせいで叩かれる傾向があるが、『八重の桜』と本作を見る限り、別に悪くない女優さんだと思う。『私の嫌いな探偵』にも期待している。

三ヶ月間、若いスタッフの情熱がほとばしる痛快な男のドラマを楽しませてもらった。視聴率を理由に、TBSのお偉いさんが若い芽を摘むようなことがあってはならない。ドラマ界こそ安定より冒険を!