『IMATの奇跡』

出だし三十分はみごとなくらい説明台詞のオンパレード。そのことにあまり違和感を覚えないのは、こちらも医療ドラマのフォーマットを刷り込まれているということか。まともに全部見た医者ドラマは『外科医・有森冴子』くらいなのだが。全体に医者ものと警察ものがいい塩梅で組み合わされていたと感じた。影浦のブラインドテストの結果が出るシーンで、日向はもっと点が高いことは予想がついたが、父親が爆破事件の容疑者だったという顛末は意外。続編作る気満々のエンディング。自分がおもしろいと思ったドラマにはめずらしく良い視聴率だった。毎週爆破事件やハイジャック事件を見せられたらいくらなんでも嘘くさすぎるので、半年に一回くらいのシリーズものになったらよいな。タイトルと内容の一致しなさで『七つの会議』を超えた! それとも、続編で日向の内面に奇跡的な変化が起きるのか?

影浦が犯人を撃てなかったのは人の命の重さを思ったから、となんかいい話みたいにまとめていたけど、上官の射殺命令に従えないのは人質の命の重さを忘れてるってことなんだが。まあ、警備部に配置転換になったからよいけど。

林脚本の高評価ドラマ『ハゲタカ』は肝心な場面で甘い展開になるところにさほど感心できなかった。今回は、過度に情緒的な台詞がないのが高ポイント。とくに後半はかなり惹きつけられた。日向の回想場面も、ただ同じ場面を流すわけではなく、じょじょに父の絶命の瞬間に近づいていくやり方だった。主人公が医者をこころざしたのが、死にゆく人間の最後の言葉を聞きたいから、というユニークな動機に納得。主人公がゴッドハンドで患者を治しまくるんではなくて、致命傷は救えないというリアルなところもよかった。「日向はわざと犯罪者の手術に失敗している」という感想もあるようだが、爆破犯はほっとけば死ぬのを手術したから、それはないのではないか。それとも、最後の言葉を聞くためだけに、切って開いて最後のひと手間かけて殺してた? 開腹と開胸のどちらが100%正しいかなんて決められない、という設定も現実的で好きだ。日向と影浦の対立やら共感やら、暑苦しくせずに当世風にスマートに描いていたと思う。犯人がもてあそんだメディアに復讐されるところもおもしろかった。大阪弁の交渉人の活躍も○。あんなところに子供を連れてきた母親の負傷には、大々的には同情できない。

イタリア料理みたいな響きのなんとかタンポナーデははじめて聞いたが、脚本家ががんばってドラマに都合のよい症状をリサーチしたのだろうな。いくら「おまいはおれだ」と言ったって、素人があんなことやるの無理だし法律違反だろ! と、医療ドラマに突っ込むだけ野暮なんだが、警官と医者が出てくるドラマで命令違反、規律違反、法令違反なしでストーリーを進めるのはそんなにむずかしいのだろうか?

一番のなごみキャラは寺さん。現実にはあの年代の人が救急隊員をやることはないだろう。渡辺哲と伊武雅刀の足元に老いが感じられてうら悲しい。日向の私服が理系理系していた。渡辺哲の母校にはあんな服装の学生さんがおおぜいいそうだ。

アクションシーンがあるのにJAEの参加がなかったのは意外。

14ゲージの注射針を出す場面で、ネット上で医療器具ヲタクが「14G、キター!」と盛り上がるかと思いきや、そんなことはなかった。

荒井管理官(高橋さん、カッコヨス)が暴走しがちな影浦に手を焼くみたいな宣伝文を読んだが、どう見ても勝手な行動で彼を困らせているのは日向だった。

心理分析官になんの権限があって、現場の出動にまで口を出すのだろうか? 本来なら二人の人物に分けるところ、キャストの節約のために一人にまとめたとしか思えない。水野美紀は知的な演技ができる数少ない女優の一人だから、見ていて不快感はなかった。

おまわりさんになるにはあきらかに身長が足りない人が警官やったり、高校生みたいな顔した坊ちゃん嬢ちゃんが医者やったりってのは勘弁なので、場違いなお子ちゃまタレントがいなくてたいへんけっこう。
札幌ローカル俳優だった戸次も出世したなぁ。続編があったら、次は大泉洋がハイジャック犯とかやる?

田中圭は力まずにSITのエースをこなして好印象。龍頭蛇尾だった『負けて、勝つ』では役柄があまりにひどくて同情してしまった。今回は役に恵まれた。劇中で言われるほど危険な目ではなかったが。
五人編成のIMATチームの一人一人、キャラもふくめて役割分担がわかりやすい。台詞が少ない業務調整員役の男優さんも看護師役の女優さんも説得力があった。現実には小倉キャラは適性検査で振り落とされそう。貫地谷は安定の演技。『ラブシャッフル』ではせっかく玉木との共演が実現しながら、二人の絡みで見ごたえがあったのが別れのシーンだけだったことを思うと、今回はかなりの前進。「落ち込んでる暇はない」のくだりなど、ほどのよい仲間意識がにじみ出る。
玉木は「ふだんは頼りない」役も「ちょいちょい頼りない」役も「四六時中頼りない」役もさんざんやってきたので、おとぼけシーンは正直おなかいっぱい。ただし、義朝の演技から注目してくれている目利きの視聴者が、「こんな芝居もできるのか」と感心してくれたんなら、やった甲斐があるというもの。手術場面は本来の(おどおどするより指示する側に向いた)声質が活きる。真島の魅力にはおよばないながら、リピ要素満載。散弾銃を取り出す場面は、田中圭ともども緊張感を醸し出せる役者だからこそこなせた。トレーに器具を置くときの力加減は上司よりうまかったのでは? でも、小木さんもカッコヨス。主犯の父親が殺人犯だったと知ってから呼吸が変化する芝居は、あとから見直すと説得力大。ヤな髪型だし屋上では目つき悪いし、裏の顔はシリアルキラーだとしてもなんの不思議もないけど、まあそんな話にはならないか。狂気を秘めたキャラはお手の物だから、続編での扱いに期待大。そんときは、うさたん成分はもうちょい控えめでお願い。ともかく、今年は中身スカスカの連ドラがなくてストレスフリーで助かりました。

突っ込みどころはあれど、少女漫画臭、月9臭が皆無で嫌いなキャストもいない民放ドラマなんて貴重なので、見終わって爽快感があった。男性的な壮大さを感じさせるBGMも好み。ああいう音楽つきのドラマに贔屓が出てくれたことも嬉しい。いい大人がぴーぴー泣くシーンがなかったのにもほっとした。フジだったら日向が手術中に不潔な涙垂らすようなとんでも演出やりそうだしなー(偏見)。