『コンフィデンスマンJP』第9話~第10話

大阪北部地震において被災された方々にお見舞い申し上げます。
震度7の揺れから3時間以内に電気を復旧させる電力会社の皆さんには、尊敬の念しかない。
粛々とインフラを復旧させる人々をまたもマスコミが邪魔しているようだが、こういうのを規制する法律でもできないものか。


何度も視聴者の裏をかいて新しい技を繰り出してくる古沢チームに脱帽。リピートしたくなる回はとくになかったものの、作り手の志が伝わってくる三か月だった。

一番意外性のあったのが第9話。古沢ならこう来るだろう! という予想を裏切って、「スポーツが人格を陶冶することもある」、「観客に幸せを与えることもある」等等、一周回った感じのスポーツ賛歌、人間賛歌の物語を見せてくれた。

最終回は重苦しい場面が延々と続くので、少々困惑。「こんなふうに生い立ちの苦労ネタで視聴者の心をざわつかせる作りはいやだな」と思わせてか~ら~の、"全部嘘でした"展開には、「全話で一番壮大なペテンだ!」という驚きと「また引っかかっちまった、自分のアホ」といううんざり感を同時に味わった。とちゅうまで、悪党どもは実は国税局ではないかと疑っていたのだが、同じ勘違いをした視聴者は他にいないのかな?

長澤まさみののびやかな魅力はかなり生かされていたと思う。ただ、他の古沢ドラマで主役を張った堺雅人長谷川博己とくらべると根がいい人だから(?)、露悪的な古美門的な台詞にじゅうぶんパンチを効かせられない場面も散見された。小手伸也は『真田丸』で名刺を配る塙団右衛門役が忘れがたい。今回はなんでもできるダー子の相棒としていいスパイスになっていた。

BGM"fox capture plan"もOfficial髭男dismの主題歌「ノーダウト」も楽しかった。

『空飛ぶタイヤ』(監督:本木克英)

原作未読。
WOWOWドラマの出来を超えるのはむずかしそうだけど、主演が長瀬智也氏ということで少々興味を持って鑑賞。極私的にはWOWOW超えの要素はごく少なかったものの、まっとうに戦う者が勝利するジャンルの邦画としては良作の部類と感じたし、クライマックスでは予想に反してウルっときた。漫画原作やお笑いやウジウジ言い訳がましい映画に飽きた人がつめかけてくれると嬉しい。

WOWOWがすごかったのは全5回、"どの立場の人間も守るべきものに(おおむね)真摯に向き合っている"ことを公平な視点で緊迫感を失わずに描き切ったところである。映画版には悪代官と善人みたいなわかりやすい構図があり、ところどころ民放2時間枠のワイド劇場とかサスペンス劇場みたいな味付けがほどこしてあった。もしも原作がTBSドラマの『半沢直樹』のようなノリだったとしたら、WOWOWより映画のほうが原作に近いことになる。赤松パートの演出はどっしりシリアスで引き込まれた。

本木監督はときどきつまらないものも作るが、近年は快作『超高速! 参勤交代』を撮ったし、傑作『神谷玄次郎捕物控』(BSプレミアム)も手がけている。『タイヤ』は緩急自在な2時間であった。

藤澤順一&長田達也の撮影・照明コンビは『舟を編む』以来? ときどき画面が黒っぽくなりすぎたのが気になる。

以下、ゆるいネタバレ。

 

 

*ほんの1分程度とはいえ、運送会社数社を映していた。メジャー映画だから予算組んでセットを作ったのか、実在の会社をちょいとお借りしたのか、少々興味がある。
*どこかお人形っぽいイケメンの沢田が最初からいい人ではなく、言うことも二転三転するところがおもしろかった。最後まで赤松と馴れ合わない展開は粋である。
*エンドロールに入る直前、歌が流れそうな予感が。えええ、こういう映画に○ャニーズのお歌は合わないよ! と思っていたら、桑田佳祐の声が聞こえてきた。説明的な歌詞が今の時代に合うということなのか……正直、歌詞ぬきで音楽だけにしてもらいたかったが、有名ミュージシャンが関わることで宣伝のプラスになるなら、まあ仕方ないかなというところ。
*長瀬氏のこういうキャラを見るのは初めてだ。冒頭は心の中の阿部サダヲが「おいおい、黙ってるとうっかり賢そうに見えるじゃねえか」(『タイガー&ドラゴン』)と言い出しそうになったが、まもなくまじめに集中して見始めた。誠実なよい演技だったと思う。
*作り手の狙い通りではあろうが、高幡刑事の騒がしさも狩野常務のワルそうなにやけ顔も大衆芸能しすぎ。
ホープ銀行頭取を津嘉山正種が演じるとは! 出番は少ないながら「チェックメイト」よりは長い台詞を言ってくれて嬉しかった。
WOWOWより味があったのは赤松の妻のキャラ。深キョンが演じることもあり、明るく強くチャーミングな奥さんだった。彼女の、いじめの容疑者に一人一人当たってみる戦い方は、のちの赤松の行動の引鉄となる。
*『超高速! 参勤交代』シリーズの面々が、わかるだけでも6人出演。監督と相性がいいのだろうか。和田聰宏がいつもながらずるがしこいキャラを好演。
*門田を演じた安倍顕嵐はエグザイル系かと思ったら、まったく予想外の所属であった。この人も好演。

『鳴門秘帖』第7回『絶体絶命の船出』

春田純一がしっかり腰の入った太刀捌きを見せてくれた。さすがはJAC仕込みである。あっという間に終わってしまったが、これまでの7話で一番見ごたえのあるチャンバラだった。

前回の予告では「隠れ場所がばれてしまうのか?!」とハラハラさせられたが、お米陣営が一枚上手であった。
お米は無惨な最期を遂げる。愛する人の役に立って死ねたのだから本望か……でも、見るからに痛そうでああいう殺され方はしたくないものである。宅助に同情が湧かないのは依怙贔屓というものか。

手に手を取って海中に飛び込む弦之丞とお綱。重い刀を持っても沈まないの!? なんて突っ込みは禁物か。

『BORDER』再放送スタート

6月1日夜9時から毎週金曜日、テレ朝チャンネル1にて。

評判を耳にして、ぜひ見たいと思っていたミステリ・ドラマ。昨年10月放送の単発『BORDER 贖罪』には惹きつけられた。本放送が4年も前だとは知らなかった。

銃弾が脳内に残ったために死者と会話を交わせるようになった刑事が主人公。ミステリドラマは山のように作られてきたので、オリジナリティを出すのは至難のはず。こんなアイデアを思いつくスタッフは偉い。
原作者の金城一紀はかならずしも好きな脚本家ではないが、今回では好みの部分だけ発揮してくれているとよいなぁ、と虫のいいことを期待する。『SP』も『CRISIS』も熱さとクールさがないまぜになった快作だったが、今回は熱さ控えめで、出だしのモノローグからしてクールでダークである。それにしてもタイトルを英語にしたがるのはなんか理由があるのかな?

とちゅうから川井憲次っぽい音楽が流れてるなぁと思ったら、やはり川井憲次だった。
ぴりっとした演出は、橋本一
金城ドラマに登場するレギュラーの女性は、「自分の仕事をきっちりかたづける」、「よけいな感情をべたつかせない」の二つの特徴を備えている印象があるが、比嘉もその流れを汲んでいる。夜の公園での石川と軽くジャブを打ち合うような言葉のやり取りも、署内での石川に背を向けての持論の展開もかっこよい。時にすべてを見通すような、時に目の前のものを見ていないような波瑠の目が気になる。

石川に助けを求める死者たちは、血まみれで泣きじゃくりながら迫ってきたりせず、衣服を整えて冷静に語りかけてくる。このへんの演出は品がある。

ひところ犯人の生い立ちやら気持ちやらに焦点を当てる作りがもてはやされたものだが、決定的瞬間の被害者の実感を重視する演出に新鮮味を感じる。死者の無念を晴らし、成仏させてやる石川は、これから宗教家のようになっていくのだろうか。

死者は現実的な証拠を与えてくれるわけではないので、石川は犯人の自白を引き出すために危ない橋を渡る。二回目以降、情報屋に何をやらせるのか興味津々。情報屋が「俺は班長の直属」と称していたが、それがこれからトラブルの元になるのだろうか?
班長の老眼設定は何かの伏線? エンケンはあいかわらずいい味。小栗旬はまったく危なげなし。

これから三か月、毎週金曜日の楽しみができた。

『コンフィデンスマンJP』第7話~第8話

今のところは、第7話が一番後味がよかったストーリー。
ボクちゃんは心置きなく与論要造を看取ることができたし、(欲しくないとか言ってたけど)金銭を手に入れたのだから、彼が一番の勝者だと感じた……が、目利きのみなさんの「家族ごっこができたし、一番大きなフェイクを成功させたのは要造だから、要造の勝ち」というご意見を目にして、そういいえばそうですね、と思い直した。
途中まではお手伝いさんがラスボスではないかと疑っていたが、まあラストから二番目のボスくらいか?
十億円相当の証券の存在を知るまでは、当方もボクちゃんレベルでダー子に騙されていた。

前回もまたカモが幸せになって終わる話だったから、第8話もそうかと予想したが、今回は又予想外の変化球だった。とりあえず、作り手が終始、視聴者にカードを正直に見せていたのが前回までとの決定的な違いだ。
長澤まさみ演じるダー子は美貌全開でランウェイで輝くが、それでも映画『モテキ』での小悪魔的完璧美女に比べるとどこか滑稽感を漂わせるところがすごい。
古沢ドラマというのはしばしば、盛り上がってきたところで突然、視聴者に視点の転換を促す。その瞬間に居合わせるたび、脚本鮮やかなり! と感嘆させられる。美濃部ミカの罵倒はたしかにひどかったが、「あなたは火傷を負った私の母とは違う、体重など努力すればなんとかなるでしょ!」という叱咤激励の気持ちがこもっているように感じられた。ミカはクリニックから退いたのち、形成外科医にでもなるのかと思いきや、ヨモギを使って女性たちの美への貢献を続けるのであった。

マスコミへのリークを解決策にするドラマは嫌いなのだが、今回の顛末はさすが古沢良太で、「煽られて盛っちゃいましたぁ、てへ」には、まー実際はそういうの多いだろうな! と大納得である。下品な真似をしたくないというプロ、リチャードの美学が、素人の浅ましさに負けたってのも、皮肉と言うか、このご時世を反映したほろ苦い小話であった。

『鳴門秘帖』第6回『十年ぶりの再会』

脚本家の尾西兼一によれば、「NHK始まって以来(?)のエロティシズムとバイオレンスを加味したごった煮時代劇となった筈です」とのこと。『神谷玄次郎捕物控 』は? と言いたくなるが、たしかに『鳴門』のほうがちょいと濃い目かもしれない。
ハエ取りリボンのごとく、あとからあとから美女がくっついてくる法月弦之丞。今回は、広い大阪でなんでそこまで都合よくあの人この人が"ばったり"出会うのか、と少々滑稽味を感じた。が、主要登場人物の出入りが多くても視聴者を混乱させるわけではないから、書き方がうまいのだろう。それにしても忙しい回だった。

平賀源内が出てくるとほっとする。この人だけは賊に襲われませんように。
武田玲奈は洋装より和装のほうが風情があっていい。ほっそりしたうなじにエロティシズムがある。前回までいまにも大量喀血して死にそうだったのに、最終回までがんばるんかい?

千絵とお綱は最終回で姉妹の名乗りを上げてめでたしめでたしになる? それともどっちか死んでしまうのだろうか。けなげな万吉はちゃんと報われてほしいが、あっさりやられる銀五郎の例があるので油断できない。

「人でなしの男が人と触れ合う中で真人間になっていく」のが吉川英治原作だそうだが、初回からそこまで人でなしとも感じなかった。にしても、こういう外連味たっぷりの娯楽時代劇の主役が務まる山本耕史は貴重な人材である。高橋光臣はエロよりバイオレンスに比重が置かれた話の方が似合うかもしれない。

『コンフィデンスマンJP』第4話~第6話

終わってみれば3話とも、ダー子たちが騙すつもりだった相手や通りすがりの人が幸せになっていた。

第5話が一番面白かった。なかでも、他局の『プロフェッショナル』のパロディ部分。レギュラー陣の芝居よりスタッフの演出力が前面に出るパートのほうがピリッとした味が出る。金儲けのために息子に無理を強いているかに見えた理事長の真の意図、押しが弱くて世渡りベタに見えた外科医の人格的な欠点。視聴者として視点の転換を迫られる瞬間がスリリングだった。第6話で産廃業者たちのおかげで食堂がうるおう場面でも然り。

ボクちゃんがコケにされたことに気づいて"かなり"虚ろな表情を浮かべる場面が気になる。お人よしなりにダー子とリチャード相手に反撃に出たばかりにトラブル発生みたいな展開はないのだろうか。