『コンフィデンスマンJP』第3話

古沢良太のドラマにしてはワクワクしないのはあいかわらずだが、回を追っておもしろさは増していると感じる。もはやどこからが"ボクちゃんにかけた罠"なのか見極めるのが視聴者のお仕事になっている。絵に感動したからって、あそこまで巨乳美大生に接近すると予想できるものだろうか? 「ピロービジネス」はなかなかきわどいネタで、あいかわらず古沢先生(と組んだスタッフも)よくやるなぁと感心。「ミーツ―運動を茶化すな」とかいって噛みつきそうな方々が静かなのは意外だ。炎上するもしないも演出の上手下手で決まるということだろうか。

ダー子の、というか長澤まさみのインチキ中国金持ちマダムの芝居は愉快だった。

「絵を見るのに必要なのは情報と知識」は一面の真理である。情緒過多な日本の世相をチクっと刺すところは安定の古沢節。来週以降、学校の作文教育にも触れてもらいたい。

トリオが城ケ崎を騙そうとして一度は失敗するから、後半の吸引力が増した。

先週お目見えした近藤がさっそく再登場して笑わせてくれた。

ダー子の眉が"フリーダ・カーロ"になったシーンに気づかず。もうちょっと集中して見ないとダメだなと反省した。来週は『映画マニア』編だとか。映画好きとしてはパロディ探しに励まなければ!

吉報!

ニュースとドキュメンタリーはだめでもドラマだけはおおむねハイレベルなNHKが、大河ファンにたいへんな朗報をもたらしてくれた。2020年の大河は明智光秀主役の『麒麟がくる』と決定。脚本は池端俊策でしかもオリジナル。そして主演は長谷川博己。『真田丸』も『おんな城主 直虎』も変化球のおもしろさはあったし、現代とは違う価値観で動く時代をきちんと描いてはいたが、長年の大河ファンとしてはときどき食い足りないと思ったのも事実である。2020年はひっさびさの本格大河を拝めそうだ。

公式HPいわく
大河ドラマの原点に戻り、戦国初期の群雄割拠の戦乱のなか、各地の英傑たちが天下を狙って、命をかけ愛をかけ戦う、戦国のビギニングにして「一大叙事詩」です。


ネットで見る限り、文句を言ってる大河ファンが一人もいない。なんだか奇跡が起きたかのようである。光秀主役の理由が「側室がいないこと」かもしれなかったり、「愛をかけ」にへんな平成ロマンが混じっていたりしたら嫌だなと思ったりするが、脚本家が「英傑たちが生き生きと走り抜けた時代」を描くと宣言し、制作統括の落合将氏も「毎週わくわく見てしまう英傑たちの青春群像劇」を届けるご意向なので、わくわくが止まらない。

オープニング音楽も、久々に重低音が響くタイプのものだとよいなぁ。なんなら男性コーラスつきで。

池端氏にまた大河を書いてほしいといっても高齢だから無理そう、と思ってきたが、現時点でまだ72歳。ジェームス三木の一回り下とか。『経世済民の男』くらいの長さが限界……ではなくてよかった。ということは、『太平記』執筆時はまだ四十代半ばだったのか!

光秀については理知的なだけでなく、勇猛果敢な面も描くとのこと。ハセヒロが理知的人物を得意とするのは周知のことだが、「若き虎」をどう演じるか楽しみだ。「武士としては身分の低い美濃の牢人として生まれる」そうで、「ほんとうは信長より自分の方が血筋が上だから下剋上の意識はなかった」説は今回は無し?

信長像に最近の学説を反映させるとのこと。『織田信長』(池上裕子、吉川弘文館、2012)しか読んでいないが、池上説の「別に天才ではなく、癇癪持ちで、細かいことを根に持つキャラ」を魅力的に描くのはたいへんそうだ。熟練した時代劇俳優で〈敦盛〉をきちんと舞えて、できれば光秀より若く見える役者というと、誰がくるのだろう。危なげがない梨園出身者? 小栗旬とも思ったが、今年出てまた再来年は可能性が低そうだ。

登場する英傑たちに松永久秀も含まれるからには、久秀役の人は人気が出そうだなぁ。3年ぶりに平埜生成の登板がないものか。
シンゴジ・ファンの期待にこたえて松尾諭が抜擢されるとしたら……またハセヒロの親友役?
アシガール』で若様役に嵌りすぎるくらい嵌っていた健太郎もぜひ。
それから、今年空気にされているとかいう高橋光臣も、きっと戦国時代に合うので、ちゃんと大役で、細川藤孝あたりでお願いしたい。

ヘタレとか等身大とかいうのはよそでやってくれればいい。才知に溢れ熱い血潮をたぎらせる漢たちを拝める日が待ち遠しい。
紹介文に「妻たちの」なんてフレーズがひと言もないのが清々しい。でも英傑たちの正室側室がまったく出てこないはずもない。尾野真千子が、ずいぶん前は得意だった"知的で教養あふれる女性"の芝居をまだやれるのなら、煕子か濃姫でも演じていただきたい。むやみに庶民的な役柄は食傷気味だ。近年の大河では、宝塚出身者がちょいちょい画面を引き締めていた。野々すみ花が帝のお側に侍る高貴な役で出てくれないものか。あるいは、美人でなければ演じてはいけないことになっているガラシャとか?

池端氏といえば、極私的に大河ベスト3に入る『太平記』をものした人である。『太平記』は脚本家以外のスタッフもすばらしく、それまではタブー扱いだった南北朝動乱が大きな視点で描かれ、格調と娯楽性のバランスが取れ、合戦シーンにリキを入れすぎて予算切れとなり、密室では白熱した議論が演出されていた。台詞の格調が高いといっても、『花の乱』ほどむずかしくはなく、『武田信玄』ほど長々しくもなく、今の十代二十代が聞いてもそんなに違和感はないのではないか。大根が数本まざっていても、演技のレベルはおおむね高かった。暗君に見えて観察眼はするどい北条高時を演じた片岡鶴太郎が印象に残る。戦功にしかるべく報いなかった権力者からは人心が離れることを冷徹に描きつつ、ときには義に殉じるもののふのロマンを描く。一人強敵を倒すと、それまでの味方の結束が崩れてしまい、主人公の尊氏は「みな、変わってしまったの」とつぶやく。尊氏がいくら太平の世を望んでも、争いの火種は尽きず、火をつける者がしばしば身内から出る。やむなく身内を成敗する尊氏……と書くと陰鬱な話のようだが、たえず無常観が漂っていたわけではなく、前半は若者たちの夢や情熱の物語でもあった。
来年は前座としてBSで『太平記』を再放送するのだろうか。
とすれば、『太平記』再放送に便乗して、脚本家&主演(真田広之)が再度タッグを組んだ『僕が彼女に、借金をした理由』をTBSが再放送すれば、キョンキョンのファンも喜ぶと思う。これは、借金を巡る都会の男女の哀歓を描いた佳作である。お金に対する感覚が今と違うけれど、窮地に陥ったサラリーマンの起死回生の――日9と比べると静かな――物語は、大人の視聴者の共感を呼ぶのではないか。

ともあれ、5月には池端氏も参加するBSドラマ『そろばん侍』、秋はハセヒロ助演の朝ドラ『まんぷく』、来年1月はクドカン大河『いだてん』、来年春からは大森寿美男の朝ドラ『夏空-なつぞら-』放映ということで、ニュースとドキュメンタリーはだめでもしばらくはドラマは見たいものを放送してくれるNHKに足を向けて寝られない。

大森氏の大河再登板が当分先になりそうなのは残念。2021年以降の大河でいろいろ予想されるパターンのうち、当たってほしいのは"脚本&主演=羽原大介&玉山鉄二"くらいだが、どうなることやら。

 

『コンフィデンスマンJP』第2話

前回に比べると、編集のテンポが向上したおかげか、滑ってる時の三谷コメディみたいな瞬間が減ってわりと見やすかった。

「日本は昔からギャンブル大国」
ふふふ、これでパチンコdisもやってくれれば喝采を送るが、それは局側が許さないのかしらん。
日本的おもてなしをdisる台詞もさすが古沢と思わせたものの、「よっ、女コミカド!」と拍手したくなるほどではなかった。若手女優で古沢の毒を超絶うまく表現できる人というと……舞台ならいるのだろうが、映像界だと思いつかない。ナイスバディなのに、入浴シーンで色気ゼロのがらっぱちなムードが漂うのは長澤まさみならでは?

突っ込んではいけないのかもしれないが、あのメンツはなぜ金のかかりそうな高級ホテルに居続けられるのだろう?

桜田リゾートのロゴが医療法人ぽく見えてならない。

ウグイス嬢のアルバイトのくだり、もしかして『からくり民主主義』(高橋秀実草思社、2002)を読んで着想を得たのだろうか? 今回のドラマのカラーからしてあまりきわどい話に持ってくはずもないが、「ホーホケキョと鳴け」だけとはいささか肩透かし。たしかに「ひどいアドリブ」だった。

ボクちゃんの日焼けメークがなんともわざとらしい。

今回の私的パロディ探しは失敗。来週もっとがんばろう。

最後に、しず子が意外と部下に慕われていることが分かった。「日本旅館外資に食われてたまるか」の心意気だけは本物だったのだ。一見強気なクールビューティーをただの権力欲の塊としないところは、そりゃあ古沢先生だもの、当たり前だわな。

ボクちゃん、コケにされるだけではちと哀れ。たまには彼の人の好さが予想外の効果を生む場面を作ってほしいものだ。

『サラメシ』雑感

ランチをのぞけば 人生が見えてくる
働くオトナの昼ご飯 それが「サラメシ」


いったいいつまでやるんだと思いながらも、家人が録画してまで見たがるのでつき合っていたら、とうとうシーズン8に突入。今回は、ある種究極のオタク人生の一コマを拝めて楽しかった。ところは国立科学博物館の研究施設。働くオトナは標本を作成する研究者。素人目には「動物の死骸」としか形容できないようなモグラやらなんやらが、専門家が腑分けして縫合してドライヤーをかけるうちに、少々ぬいぐるみめいた愛嬌のある物体に変化していく。自分の仕事は後世の人々のためのもの。腹の坐ったプロの言葉を聞けた。

渡瀬恒彦行きつけのラーメン店が出てきた。喧嘩の話は出なかった。

何シーズンも見てきて思うのは、昼のメニューがどうこうよりまず、この番組に出てくるような名もないおじさんおばさん、おにいさんおねえさん、そしてときたま出てくる矍鑠とした後期高齢者がまじめに働くから、今のところ日本はもっているのだな、ということ。取材班を招くのは職場が嫌いじゃないタイプの人々だろうが、それにしても仕事場が"金を稼ぐためだけの場所"とはかぎらないのも日本ならではか。

この番組の影響で、社員のために定期的に厨房で腕をふるう中小企業の社長さんや部長さんが増えてきたようだ。本人も周りもそれで満足ならけっこうだが、「おれら若いもんはもっと肉中心のメニューがいいっすよ~」と言いたくても言えない平社員が増えているとしたらお気の毒。作ってる方も、止めるタイミングを逃すとたいへん。

シーズン7だったか、高校を出たばかりの新人を職場で育てているようすが映った。世間は安易な若者の大学進学を勧めるより、こういう現場を増やすべきではないか。
六次産業化に成功した和歌山のみかん農園も忘れがたい。高卒から大学院卒まで、適性に合った仕事がある。この分野はまだのびしろがありそうなのも嬉しい。皆さんが何を食べていたかは完全に忘れてしまった。

サラメシそのもので一番記憶に残るのが、"貝合わせ"の絵付師の昼ご飯だ。ハマグリの貝殻に毎日毎日、百人一首を書いて絵付けして、中身の方も毎日毎日食べなくてはならないという。ハマグリはどちらかと言えばごちそうだけれども、連日義務で食べるのはたいへんだろうなぁと(余計な)同情をしてしまった。

主として若者にウケていたテレビがいつのまにか、主婦と退職老人のものになってしまった。そんなご時世に「働くオトナ」にスポットを当てた番組が続いているのはおもしろい。我が家のように録画してまで見るもの好きばかりではないだろうから、働いて帰ってくるオトナのために、せめて10時台に放送すればよさそうなものだが……。


この番組だけは妙な変化球は投げて欲しくない。たとえば以下のような事態はマツピラである。
「今日は趣向を変えて、ファミレスで何時間もがんばってるママ友グループにおじゃましましたぁ! 何をそんなに盛り上がってんですか? なになに、A子さん、子供の担任のここが気に入らない(傾聴タイム)はいはい、で、B子さん、うちの亭主が言いやがった台詞が(傾聴タイム)もー少しかいつまんでお話ししてくれませんかね。で、C子さんは、タロちゃんの主治医のここがだめ(傾聴タイム)もー時間切れだよ、また来週っ」

『コンフィデンスマンJP』第1話

期待8割、不安2割くらいで待機していたところ……『リーガルハイ』(2013年放送の、いわゆるパート2)放送時のように、脚本家の冒険が好みに合わないという面はなかったが、演出のテンポか何かが微妙に肌に合わず、録画したもののまったくリピートしたい気持ちが湧いてこない。同じ古沢良太脚本でも、『リーガル・ハイ』(2012)や『デート』には、何から何までどんぴしゃりの気持ちよさがあった。今作の企画は『リーガル・ハイ』、『デート』と同じ成河広明氏だそうだが、演出のメンバーはまったくかぶらないようだ。目利きの方が「TBSならもうすこしうまくやれたのでは」とおっしゃっていた。たしかに、クドカンと組むスタッフあたりなら、もっと上手に料理できたかもしれない気がする。

画面の明るさはほどよい印象。怪我したふりで床でのたうちまわるダー子に「川谷拓三じゃないんだから」と突っ込む台詞は笑える。この手のオマージュ探しに集中するのが、今作を楽しむコツ?

あれだけエキストラを雇ってジャンボ機をチャーターしたら、小銭単位の儲けも出ないのでは? と思うが、まあそこを突っ込むのは野暮というもの。「中南米じゃあるまいし、札束で空港職員が不正を見逃してくれるの?!」のもやもやは払拭されて助かった。

ボクちゃん、とても詐欺師が務まりそうに見えないのだが……とちゅうから、それが狙いなのがあからさまになっていた。今後も「敵を欺くにはまず味方から」作戦の犠牲になりつづけると予想される。東出昌大をキャスティングした理由がわかる。『リーガルハイ』スペシャルに出た時の彼には別に大根風味も感じなかった。が、コメディを演じるところを拝見するうちに、SNSであれこれ言われるのがなぜだかわかってきた。

長澤まさみは映画でも(TV中継で見た)舞台でもいい芝居をするし、細いだけじゃないフォトジェニックな肢体の持ち主だし、花も実もあるいい女優だと思う。が、完璧にはじけたコメディエンヌになれるかどうかには少々疑問あり。古沢作品の『リーガル・ハイ』も『デート』も、めっぽう舌の回転が速く、かつ絶妙なコメディセンスを持つ堺雅人長谷川博己がぐいぐい画面を引っ張っていったのに比べると、今回は彼らと同じ技量を持つ小日向文世が三番手なので、なかなか厳しいものがある。
問題は演技より演出家が作るテンポなのだろうけど。

来週のゲストは吉瀬美智子か……演者に頼る作りでないとよいなぁ。

ここ2年の連続ドラマ

*国内ドラマ~リアルタイム視聴
2クールに1本か2本見る習慣はあいかわらず。
重版出来!』:圧倒的に印象に残る。一流クリエイターへの敬意、クリエイターを目指すも挫折する者への冷徹だが愛情あるまなざしに心を打たれた。
監獄のお姫さま』:クドカンだから見た。お得意の過去と現在を行ったり来たりの手法で、アラフィフを中心に道を踏み外した女の集団を描いた人情劇。エンドクレジットが流れるたびに、「またスタッフの手のひらで転がされていたな」と脱帽したものだ。このドラマが良かったからと言って、伊勢谷友介をもっと民放連ドラに出そうとする(誰が?)のは間違い。「むやみにテレビに出ないし、基本NHKにしか出ない」スタンスの人がめずらしく民放に出たところがミソなのだから。個人的には、『うぬぼれ刑事』の軽さやばかばかしさの方が好み。
『神の舌を持つ男』:堤幸彦だから見た……で、堤カラーは強く出ているにも関わらず、あのつまらなさはなんぞ? テンポの悪さだけが原因ではなさそうだ。内輪受けに走り過ぎたか。佐藤二朗以外に笑いを作れるキャストがいないのも辛かった。

*国内ドラマ~再放送
逃げるは恥だが役に立つ』:家人につきあって視聴。ど~~もお呼びでない感じだなってことで、第一回終了と同時に離脱。最終回まで見た人々の「恋愛至上主義に疑問を投げかけた佳作」という評価が当たっているのなら、多くの人を救った良作と言えるのだろう。
『カルテット』:あまりにいろんな人から「絶対好みだから見るべき」と言われて視聴。久々に、先の読めない展開つづきで、一気再放送をわりと一気に完走した。四人が偶然知り合ったはずはないだろうと思った以外は、脚本家の手の内が読めないまま最終回まで引きずられていった印象だ。曲者俳優の松田龍平が一番常識的なキャラを担当したところはおもしろい。現代劇の松たか子をいいと思ったのはこれが初めて。椎名林檎の音楽もエンディング映像も都会的でかっこよかった。高橋一生はどちらかと言えば好きな役者だが、こういう売り方ばかりすると役幅が狭まるのではないか。ストーリーはおもしろかったが、「こんな台詞書けちゃう俺♡」みたいな坂元裕二のどや顔が何度も鼻についたので、やはり好きにはなれない脚本家だと再認識。坂元大河だけは実現してほしくない。あと、寿美男じゃないほうの大森大河も。
『アンナチュラル』:今期は何も見る気になれなかったが、『アンナチュラル』を絶賛する意見を目にすること多し。再放送があったらチェックしたい。

NHK
悦ちゃん』:明るく楽しく洒脱な極上エンターテインメント。鬱々とした場面もそれなりにあったが終わり良ければすべて良し。後釜の『アシガール』も健闘。土曜のドラマというと夜8時か9時台の社会派に傑作が多かったけれど、これからは6時台のほうも"明るいドラマ枠"として良作を連発していくのではないか。
夏目漱石の妻』:疲れている時にはとても再見する気になれないが、ずっしり重みのある文人ドラマだった。十年後にも記憶に残りそうだ。

*今期~来年のドラマ
『コンフィデンスJP』が始まると思うとわくわくする。保存したくなる出来でありますように。
朝ドラは鬼門――『あまちゃん』や『てるてる家族』は例外――の思いはぬぐいきれないが、秋に始まる『まんぷく』には興味あり。主演が安藤サクラ、夫役が長谷川博己、演出が安達もじりときたら、コクのある大人のドラマができなきゃ嘘だと言いたくなるが……福田靖が起業の扱いだけでなく男女の人情の機微の扱いも得意な人だといいのだけれど。今期の『半分、青い』はスルー。佐藤健が重要な役でしかもNHK。だがしかし昨年、脚本家の名前を聞いた時点で、"not for me"のフォルダーに入れてしまった。
最大の楽しみは次期大河『いだてん』。来年再来年とビッグイベント続きだが、『いだてん』を含めて幸福な記憶が残ることを願うばかりである。


*しつこいおまけ:海外ドラマ
あいかわらずイギリス以北のヨーロッパのドラマが好みだ。
『トラップ 凍える死体』:嵐に閉ざされた小さな港町に身元不明の惨殺死体が漂着する……アイスランド本格ミステリ。誰もが顔見知りの狭い港町で、次々と住民の秘密が暴かれていく。事件を解決した刑事は、身内から恨まれる。やたらと寒そうなおかげで、温帯が舞台だったら臭ってきそうな死体もそう感じさせない。ノルディック・ノワールのつねで、国際的な人身売買組織が暗躍するものの、今作では少女たちの未来に一筋の光明がさす。
ダウントン・アビー』:最終回はずいぶんと盛りだくさんだったが、無理な駆け足とは感じさせず。権威や富を悪にしたがる本邦映像作家にはなかなか作れない、"貴族の言い分"込みのイギリス流大河ドラマであった。
『ヒンターランド』:ウェールズ発。話が辛気臭いし美男美女は出てこないし、つねに眉間にしわを寄せた主人公はベテラン刑事にあるまじき公私混同をやらかすし……なのに、地味におもしろい。荒涼たる風景に疑心暗鬼の人間関係においしくなさそうな食べ物。日本でぬくぬくしながらこういうドラマを見物するのはいいが、間違ってもあちらの国で暮らしたいとは思わない。
『刑事モース~オックスフォード事件簿~』:WOWOWで放送したのを、シネフィルWOWOWで再放送。偶然にもBSプレミアムでは吹き替え版を放送中。日本の声優はひじょうにハイレベルだが、イギリスものは字幕版が好み。吹き替え版だと威圧的なキャリア官僚の声が太くて威圧的にされがちだ。が、ソフトな口調でいけずなことを言うところがイギリス流のお芝居のおつな味なので、そこは聞き逃したくない。『主任警部モース』は英国でたいへんな高視聴率を叩き出し内容的な評価も高いそうだが、そのスピンオフ『ルイス警部』も今回の『刑事モース』もまったくレベルダウンしていない。孤立感を味わうインテリと庶民派のコンビとか、同一犯と思われた二つの事件がまったく関係のない犯罪だったとか、オックスフォードの美しい街並みを生かすとか、『主任警部モース』を踏襲しながらも、マンネリ感はゼロである。警部になってからのモースは押しが強く人遣いが荒い上司で、そこがかっこよくもあったのだが、新米時代のモースはシャイでガラス細工のごとく繊細である。一見保身に汲々としているかのような貧相な警視がモースの危機を救ったり、だらしない州警察を一喝したり、意外性で魅せる。『刑事モース』に出てくる新聞記者役のアビゲイル・ソウが、本家モースを演じたジョン・ソウの娘と知ってびっくり。言われてみれば彫りの深さも立派な鼻もそっくりだ。何度も意味ありげにフリーメイソンが出てきたが、今後も消えた証拠品が回収されたりはしないのだろうな。『主任警部』なんて犯人がつかまらないまま終わった回もあるんだし。
『ハウス・オブ・カード』:主演男優がやらかしたので、あとは彼抜きで制作されるとのこと。第一シーズンでたまげたのが、主人公が教会のキリスト像に唾を吐きかける場面。こんな場面を入れるからには、彼が碌な末路を辿らないことは制作側が決めているのだろうと思っていたが、新シーズンは「フランシスは○○で死亡」とかいう強引なテロプとともに幕を開けるのだろうか? ロビン・ライトは大統領でも国防長官でも嵌りそうだから、彼女だけで画面がもたないという心配はなさそう。
ゲーム・オブ・スローンズ』:とてつもない傑作らしいのだが、これに手を出すと生活が破壊されそうで二の足を踏んでしまう……。

 

『どこにもない国』後編

山田純大が日系アメリカ人将校の役で出演。骨太の役者なので、BSあたりで準主役くらいはやっていただきたいものだ。「排日移民法と戦った方ですね?」。丸山氏の同胞愛や反骨精神を表す重要なエピソードなのだが……もともとこの法律になじみがある視聴者にしか響かなかったようでなんとも残念。

引揚船が出ると決まって男泣きに泣く三人組。役者の涙は安売りしないで、こういう設定にこそ使うべきなのだ。

丸山と新甫は吉田総理に直談判する。言葉で戦う丸山と、肉体を痛めつけられる武蔵が交互に映り、川井憲次のシャープなBGMが流れて緊張感を醸し出す。
"どこにもない国"に、満州の日本人が国を失ったのはもちろん、総理大臣にとっても表だって活躍できる国がどこにもない、という二重の意味を持たせたのところはさすが大森寿美男
老政治家をやり込めたつもりの丸山に、吉田は背中を向けて語り出す。「ここからは吉田個人の言葉だ。GHQはとっくにソ連と交渉していたよ。マッカーサーにとっても、あんたらの出現は都合が良かったんだ。ソ連の好きにはさせない、そういう機運を高められた。心配しなさんな。いずれGHQは操り人形にすると言ったはずだ。しかし君はよくしゃべるねぇ」。晩年の原田芳雄もそうだったが、アウトロー俳優だったショーケンが、総理大臣をやるとはねぇ……しかしショーケン、含み綿入れ過ぎ!
柴田恭兵はこんなにいいナレーターだったのかと思わされるドラマだったが、ここでのナレーションも印象深い。
――吉田はすでに大連などからの引き上げに関し、マッカーサー宛てに英語で書簡を書き送っていた。これより具体的な交渉に乗り出していくのであった。
面会終了時刻になったので呼び鈴に手を伸ばして、まあ少しは待ってやろうという大物政治家の余裕っぷり。吉田や佐藤栄作の尽力については説明台詞に頼らない演出で見たかったのだが、それこそ時間の制約があるから仕方がない。

武蔵釈放の場面。スパイ容疑が晴れたのは、事前に国民軍の将校に渡りを付けておいたから、という背景説明は、やはり時間切れで無理だったか。あるいは撮ったけど、やむなくカット?

一流スポーツマンとノーベル賞受賞者以外の同胞をなかなか褒めないのが日本のメディアだ。今回の、丸山邦男、新甫八朗、武蔵正道の知力、胆力、偉業を周知しようという姿勢はすばらしい。
NHKのことだから、立て替えた活動費のその後についてネチネチ語るかと思いきや、そこはスルーで意外。ヤルタ直後から、アメリカ上層部では満州がどういうことになるかわかっていたはず。米側が"温情"だけで引揚船を出したわけではないことは吉田の口から語らせたから単純なドラマにならなくてよかったが、それにしてもアメさんのやることはとんだマッチポンプとしか思えない。

内野聖陽はちょんまげのっける仕事ならなんの心配もないけれど、昭和ドラマだとどうかな……というのは杞憂であった。長台詞が時々舞台じみるところはあっても、オーバーアクトではない誠意のにじみ出る熱っぽいお芝居を見せてくれた。蓮佛美沙子はせっかく昭和顔なのに(?)ちょっと未来人ぽいふるまいをする場面があったりして、(脚本の設定が)期待外れ。この手のドラマに出てくるアメリカ人キャストがいつも代り映えしないのは、なんとかしてほしい。下手ではないけれど、「またこの人!」みたいなのが続くと少々興がさめる。

経世済民の男シリーズはもうやらないのかな? 大森脚本、内野主演で『渋沢栄一』とか、無理かなぁ~。