『悦ちゃん~昭和駄目パパ恋物語~』第1話

明るく楽しい連続ドラマが始まった。"時代劇"ならぬ"時代ドラマ"枠だそうな。『みをつくし料理帖』は総合点の高い時代劇だったが、小野寺のぎすぎすした物言いが、やっぱりいかにも藤本調で大好物とはいかなかった。今回は、昭和初期の風俗を楽しめればじゅうぶん程度にしか思っていなかったが、期待を上回るおもしろさである。
原作は未読。『パリの日本人』(鹿島茂)を読んで、獅子文六にはやや興味を持ったていた。モダンなセンスはパリ留学のたまものなのだろうか。『パパママソング』のかわいらしいこと!

「一癖ある中年男が主人公の、超絶楽しいドラマをやりたいですね…」(家富P)
民放ではマイベスト3に入るのが『結婚できない男』。『悦ちゃん』はNHKコメディ部門でマイベスト3に入るかなっ!?

まだ農業国だった大正昭和の日本で、都市部だけは中流階級が文化的生活やら自由やらを謳歌していた。
――当時、中流以上の家庭に使用人がいるのは珍しいことではありませんでした。
そこそこ出来のいいドラマでも、スルーされることが多々ある事実を堂々とナレーションで説明してくれた。大量の家電と少ない子供に囲まれたいまどきの主婦が「人に手伝わせるなんてズルい!」とか「アタシの生き方を否定するのか!」とか、勘違いなクレームの電話を入れませんように、ナムナム。

BGMは楽しく、色調はペロペロキャンディかなんかのように明るく、演出はテンポよく、大人も子供もお芝居がしっかりかみ合っている。成人女性がみんな額を出したすっきりした髪形なのも気持ちいい。碌さんだけは最後まであのまま?

生活重視か創造性重視か、見せようによっては重苦しくなりかねないテーマも、ほどのいいところで切り上げた。

平尾菜々花の芸達者ぶりに参った。現代ドラマにこましゃくれた子が出てくると舌打ちしたくなることが多いのだが、悦ちゃんは何を言っても「気風がいいねぇ」と愉快になるだけだ。

ばあやにちゃんとお給金が渡るように、碌さんにはぜひヒットを飛ばしてもらいたい。

『ブランケット・キャッツ』第3話『二人ぽっちのブランケット・キャット』

健康、記憶、仕事、持ち家など今まで持っていたものを失った人々が苦しんでいた1話2話。
長らく持ちたかったもの――ものというか、子どもだが――をあきらめて、次に進もうとするのが第3話。世間的には前2話のほうが深刻と受け取られるのだろうが、石田夫妻の痛々しさが胸に迫る。不妊の原因が女性側にあるとはかぎらない、ことをこのドラマで初めて知る視聴者もいるのだろうな。それだけでも啓蒙的な価値があるドラマだ。

猫は人間の役に立ってるけど、人間が猫の役に立ってないじゃん、これがえんえん続くのか……と思いきや、今回はチャイがめでたく優しい石田夫妻に引き取られた。これで秀亮が負担するキャットフード代も七分の六に減るわけだ。

「子どものかわりだっていいじゃないか」
これは原作にもある台詞? 重松清は読みたい作家ではないのだが、こんな柔軟性のある言葉を書けるなら、極私的評価はちょっと上がる。

「がんばって猫のこと勉強する」
いや、有希枝さん、がんばんなくていいから。猫の生活態度から、ちっとはだらだらすることを学んでくりゃれ。
加藤虎ノ介は器用な時代劇俳優と思っていたが、今回はソフトな現代人男性を自然に演じている。ともさかりえは安定した助演ぶり。

『ブランケット・キャッツ』第2話『わが家の夢のブランケット・キャッツ』

岩合さんの『ネコ歩き』の向こうを張って、猫好きホイホイ企画がスタートした。

二匹一役はなさそうだ、二匹一役なのか三匹一役なのか? 初回、巧い具合に猫が椎名秀亮の肩に載ったが、あれは演技指導のたまものなのか、まさかトレーナーがぶん投げたのか? といろいろ気になる。

第1話も第2話も、猫の手を借りて人間の家族や恋人が関係を修復するストーリーだった。
「やっぱり飼わない」パターンは最終回まで続くのかしらん。

マギー演じるお父さんを見て心で泣いた男性視聴者は、少なくないと思われる。長じて"遊ぶ権利と保護される権利だけ疑問に思わない主婦"になりそうだった長女を、母親がちゃんと叱ったのでほっとした。頭の良し悪しとは? についての台詞は、ちょっとユニーク。父親役の長台詞は(おそらく原作者の癖で)一部説明過剰。

人間側のレギュラー陣だけのシーン……とくに秀亮と美咲がティーンエイジャーのごとく意地を張り合う場面になると、脚本といい演技といい"ドラマのNHK"と思えないレベルに落ちるのがなんとも残念である。

画面を白っぽく見せる作りなのも手伝って、西島秀俊が屋外にいると〇〇ハウスのCMみたいと思うし、屋内にいると家電のCMみたいだと思う。服装もそれっぽい。
主人公はなぜ倉木のような口調で話すのだろう? 元サラリーマンなら、店に来る人に敬語を使いそうなものだが。

来週も猫とゲストの芸が楽しみだ。 

 

『破門 疫病神シリーズ』チャンネルNECO一挙放送

むっちゃおもろかった!
末廣健一郎の威勢のよいBGMが耳に残る。

黒川博行の原作(『破門』、『疫病神』)は未読。
2015年にBSスカパー!で連続放送されたのは知っていた。J:COMのおかげで2年後に拝めることができてありがたいことである。
ヤの字のお仕事の人がわらわらと出てくるし皆さん煙草をスパスパやるし、地上波ゴールデンの連ドラにできないのは当然と思うが、予想したようなグロさや怖さはなく、映画館でやるとしてもせいぜいR15相当シーンがほんの数分のみ。テンポがよくてハラハラドキドキ、桑原はときどき不自然と思えるくらい強い……と油断してると、瀕死でない重傷を負ったりする。そしてなんといっても桑原と二宮の漫才の笑えること笑えること。

二宮はちょっと頼りなさげなボンボンタイプの二代目社長。建設現場に妨害をしにくるヤクザを別のヤクザを使っておさえるのを"サバキ"と言うんだそうだが、二宮はそのサバキの仲介をして細々と食っている。彼のクライアントが担当する産業廃棄物処理場建設に二方面から妨害が入るが、なんと両者は同じ組の下部組織らしい……。
オールバックに縁なし眼鏡、黒のスーツにダークグレーのネクタイを締めた桑原が、高圧的な態度で二宮に手を貸す。"二蝶会のイケイケ男"桑原を、二宮は疫病神としか思えない。だが、桑原と一緒にあやういことをする瞬間の「ひりひりした感じ」に、二宮は憑りつかれていく。

複数の組織が入り乱れるストーリーだが、親切にも定期的に桑原が相関図を書いて説明してくれるので、視聴者は置いてきぼりにならない。二宮が敵方の隠し事に気づく瞬間の描写も簡潔かつ効果的。オラオラな雰囲気とはうらはらに、骨格は頭脳的なミステリドラマとも言える内容で、和製ドラマとしては上出来の部類ではないか。大型の廃棄場を企画するさい必要な各種手続き、立地条件、行政書士の役割など、こまごまとお勉強になった。

産廃問題解決後は、映画の出資絡みの詐欺事件が持ち上がる。
タイトルが盛大なネタバレなので、最終回がどうなるかはだれでも見当がつくわけだが、後日談が気になって仕方がない。『螻蛄』は2016年にBSスカパー!で放送済み。NECOに下りてくる日が楽しみだ。

名作の評判高い原作と優秀なスタッフ、キャストが幸運な出会いを果たした作品である。演出家の木村ひさし、森淳一、藤澤浩和が力を発揮して、8話通じて一度もボルテージが落ちなかった。脚本担当の酒井雅秋は原作の裁き方が見事なのだと思うが、どの台詞が原作由来でどれがオリジナルかは自分には見当もつかない。

濱田岳は何をやっても達者な脇役俳優というイメージだったが、今回は堂々のダブル主演。気弱で平凡そうでいて、賭けのスリルにかすかにニヤりとする表情などはさすが。下手すりゃ殺されそうな場面での「ぼくが貸した三万円忘れないでくださいよ」みたいなセリフに無理がない。堅気のくせにやっちゃいけないことをいろいろやらかすが、ともなく憎めない持ち味が最高に生きている。

北村一輝は大河『北条時宗』や映画『皆月』など強烈なキャラが多かったのが、近年は気弱な役おとなしい役もこなすようになった。が、今回の桑原は彼のベスト5くらいに入る好演というか、もっとこの手の役をやってほしい。強面とにやけ顔が絶妙に入り混じった表情で「二宮くぅん、君はほんまにあかんのう」みたいな憎まれ口をたたく場面には、今まで見てきたハードボイルドと毛色の違う味わいがある。アクションシーンは『CRISIS』の記憶が新しい今は絶賛する気にはなれないが、飲み食いしながらでも楽しめるエンターテインメントとしては満足の内容。ときどき漫画の静止画じみたポーズを取るところも含めて、なんとも魅力的なキャラクターを造形していた。


このスタッフ、キャストで『疾風の勇人』(大和田秀樹)を映像化してくれないかなぁ。『疾風』は宮澤喜一以外全員、実物よりイケメンに描いているので、今回のキャストでじゅうぶん賄えると思われ。広島弁をまくしたてる北村氏を見てみたい! もちろん池田隼人役で。

生放送『裁判劇テロ』あなたの裁判は?!

6月17日放送分
ネタバレあり


ハイジャックされた旅客機を独断で撃墜し、164人を殺して7万人を救った空軍少佐。果たして彼は英雄か? 犯罪者か? 電話による視聴者投票の判決は!?

十か国で同じ設定の舞台劇を上演し、観客の投票を募ったところ、九か国は圧倒的に無罪が多かったのに、日本だけは四回上演中四回とも有罪の結果が出たという。

今回の放送についても、日本の視聴者なら9割以上が有罪にするだろうと予想していたところ、62%が世界の常識どおりに「無罪」と判定した。ドラマ中、被害者遺族がもう一人出てきて大量の涙を流したら、結果は違ったかもしれないが。

ドイツのテレビ局は有罪と無罪と二通りの判決文を用意。6月17日は視聴者投票の結果にしたがい、無罪の判決文朗読シーンが流れた。

判断の根拠は三つ
1.構成要素該当性
2.違法性
3.有責性

小をもって大を生かすため、"小さな悪"は無罪となす。
テロップで流れたtwitterに「ドラマ中の検察が仮定を重ねすぎ」とあり、同感。スタジオのMCも同様。自分はぜったい判断を下す場に立たなくて済む人間特有の無責任さにうんざりさせられた。国民がテロに遭わないためにはどうしたらいいかなど、まったく考えていないようだ。
パトリック・ハーランが「コーラテラルダメージは絶対だめなんて言ってたら、何度でもテロリストはやってきますよ」と発言。これ、CATVだから言わせてもらえるのだろうな。

『ダウントン・アビー6』第7回『悲しみの決断』

シーズン6は全10回だそうで、いよいよ7月9日で完全にお別れだ。予定通りシーズン3で止めておけばよかったのにと思ったこともあるが、延期したわりに怖れたほど脚本の質が落ちていない。プロットよりレトリックで魅せるのはあいかわらず。

観察眼、実行力とも若い者たちを上回っていたバイオレットが、ついに時流を読めなくなる。病院統合で揉めに揉めて頭を冷やすために南欧へ旅立つおばあさま。が、意外な置き土産で息子を心から喜ばせ、視聴者のあいだではまた株が上がった。このへんのジュリアン・フェローズの話のひねり方はさすが。

モールズリーがデイジーの勉強を見てやるあたりから
  ↓
モールズリーが学校の教師としてスカウトされる
  ↓
トーマスが辞めなくて済む

という展開を予想していたのだが、ネット上で見る限り、番組ファンのあいだではそのような意見もなく、また予告でとんでもない浴槽シーンが映って少々びっくり。結果的には、トーマスは残るのではないかといまだに思っているが……。

前々シーズンまででデイジーはずいぶん大人になったような描写があったのに、バンティングと出会ったあたりから、またぞろ人に悪影響を受けやすいところと視野の狭さを発揮しだして、視聴者をやきもきさせている。

最初は無責任で思慮の浅い活動家気質だったトムが、すっかり練れた苦労人になった。まだまだメアリーの説得をあきらめない模様だ。クールで誇り高く(イーディス以外には)貴族使用人を問わず身内思いで、でも時々問題をこじらせてしまうメアリーの造形がおもしろい。
奥さんのいる人ばかり好きになっていたイーディスがどうやら逆転ホームランを打つようで、まぁよかったよかったという気分。編集長になることで、仕事のしんどさとやりがいを知る場面はお約束だが感動的だった。

伯爵は、シーズン1の初回でタイタニック号の三等客室の人々に同情する件以来、慈悲深いお殿様としてのキャラは崩れていない。コーラは悪気はまったくないものの時おり無神経さや独善性を発揮する。イギリス人脚本家のアメリカ人観がうかがえる。

話が始まってから10年ほど経過して、女性のスカート丈はどんどん短くなり、文明の利器は増え、階級の垣根も低くなった。老けメイクは不要というのは、スタッフの総意なのか?
B&Bはもっと昔からある形態の宿かと思ったら、20年代が走りだったとは!
リンドバーグの偉業が最終回に間に合うのかどうかにも興味津津。

『CRISIS:公安機動捜査隊特捜班』episode.8-10

episode.8
間一髪、嫌味で保身しか考えないエリートみたいだった青沼が救援に駆けつけた、と見せて、すべては鍛冶の筋書き通りだった。この二ひねりと各自の特徴を生かしたアクションの組み合わせがおもしろい。樫井が秘密の技を繰り出す……なんてことはなく、何度も愚直にタックルをかます展開が胸熱。

episode.9-10
金子ノブアキは暗い色気が魅力的だが、結城が恨みを抱えた理由が「え、このドラマでそれ?」といささか肩透かしを食らった印象。
思えばepisode7でずいぶん被害者ぶってた坂本クンは突っ込みどころ満載だった。自宅通学可能な大学が山ほどある東京で持ち家に住んでいて一人っ子。ハッカー活動に向けた頭脳と時間を受験勉強に向ければ、貸与型奨学金を取って並み以上の大学に通う未来は開けそうなもんだが。で、このたびも途中から「コッカコッカ」と朝日が飼ってる鶏かインコみたいに姦しいことこの上ない。国家と国民が乖離した存在という価値観も、まああいかわらず。過激派に甘いマスコミだが、首相の息子が関われば悪事となるわけか。昨年せっかく『シン・ゴジラ』がエンタメ界に新風を吹き込んだのにくらべると、今作のストーリー展開はいかにも古い。いまどきの公安のお仕事なのに"わるいがいこくじん"はミサイルがらみで申し訳程度に出てくるだけ……脚本担当の金城一紀の来歴を読んだら、まあそういうことかとある意味納得。映画『ダディ、フライ、ダディ』(原作、脚本)とドラマ『SP』はたいへんおもしろかったが、今回はそれらにおよばず。
よく引き合いに出される『MOZU』を見た時は、酔狂もそこまで極めるのならストーリーの穴なんかはつつきません! という気持ちになれたが、『CRISIS』は予想より小さくまとまってしまった感がある。平成維新軍の活動が尻切れトンボ気味なのはプロットミス?

何かと子供っぽくなりがちな和製刑事ドラマにあって、鍛冶は味のあるキャラだった。最終回、総理と話しながら指をひらひらしていたのには何か意図があったのだろうか? 『モンスター』のルンゲみたいな。
小栗旬西島秀俊も役柄を楽しんでいるようなのが、視聴者にとっても楽しかった。西島氏は雰囲気のある貴重な映画俳優だし、仕事選びはわりと信用できる人だが、アクションだけでない全体的な芝居というと、感情表現も緩急自在な小栗氏に軍配が上がる。

老獪な警備局長を体現した長塚京三の演技はもっと見たかった。田中哲司は何をやっても安心な人だが、クールに見えて部下思いな心情表現はもちろん、中年にはきついアクションもこなして極私的にはまた株が上がった。野間口徹の「鼻利き過ぎ」キャラは最初どーすんのかと思ってしまったが、最後まで物静かで頼れる仲間だった。グズグズメソメソキーキー要素抜きに女性捜査官がキャラ設定されていたおかげで見ていてストレスがなくて助かった。新木優子さんの今後に期待したい。

 

アクションシーンだけ、もう一度くらい録画をリピートしたくなるかもしれない。劇伴を控えた一対一の肉弾戦が強く印象に残る。