『小さな巨人』第1話

『LEADERS2』は手堅い作りだったし、現代ものなのに内野聖陽がくどすぎる芝居に走らなかったし、予想よりおもしろかった。ただ、怒号土下座涙ぬきでも熱いドラマはできるだろうに、といささかうんざりもさせられた。

小さな巨人』は、しょっぱなのダーッと並んだ会議室の机とか、主人公夫妻のキャスティングとか、ちょっと『シン・ゴジラ』風味があってTBS日9のマンネリ打破か!? と期待してしまった。しかし「捜査は理論です」と言い切った香坂は第1話中盤、早々に「捜査は勘」派の汗臭い渡部にほだされたもよう。長谷川博己は今の中堅主演スターでは唯一エリート兼インテリをやれる人なのに、主人公が浪花節方面に行ってしまうのはもったいない。
やたら内助の功くさくもなく、仕事に無理解なわからずやでもなく、ひょうひょうとした妻(市川実日子)の造形が新鮮に感じられる。

俳優に怒鳴らせることでドラマチックな効果を出す手法は好きではないが、本作では発声がしっかりした役者ぞろいなのでその手のシーンにも不快感は覚えない。とくに、神尾佑は毎回2、3回怒鳴ってくれてもいいくらいだ(依怙贔屓)。

たまに『MOZU』を彷彿させるBGMが流れたが、音楽担当は木村秀彬とかで、こちらの聞き違いだったのか。

監修が福澤克雄……『半沢直樹』とか『下町ロケット』とか『LEADERS』シリーズとか演出した人なのか。う~ん、最後に小野田が香坂に土下座して香坂が離れ島に飛ばされる、なんてのは願い下げだなあ。
せっかくオリジナルで勝負するのだから、過去のヒット作になかった要素を一つくらいは入れて欲しい。「所轄が云々」、「キャリアが云々」には食傷している。この手の台詞をせめて1割減らしてもらえないものか。

『4号警備』第2回

『CRISIS』より地道で危険なアクションがたまらない。最終回までにどれだけエスカレートするのだろうか?
インターネットがらみの犯罪というのは、卑劣さが際立つ。
「朝比奈! 朝比奈!」石丸の必死の呼びかけが印象に残る。叫んだだけだったけど、あの瞬間、石丸も過去の挫折ゆえの傷のようなものから少し立ち直れたのではないか。
強面のボクシングジムのオーナーの「自分を殴りつけるだけでは強くならない」が気になる。朝比奈はこれからいかにして強くなるのか? 麿赤児はいるだけでありがたい存在。

 

『CRISIS:公安機動捜査隊特捜班』episode.1

重版出来!』以来、自分から見たいと思う民放の連ドラが一つもなかったが、今期は『CRISIS』と『小さな巨人』が楽しみだ。

新幹線の狭いエリアでの立ち回りにわくわくした。とくに、犯人が振り回すリュックが稲見の顔すれすれ!の場面が印象に残る。(CGだったりするのか? だとしてもおもしろければよい)
根性の腐ったボンボンを大山が引っぱたく場面は弱すぎ。そもそもグーパンチにすべきではないか。アクションに慣れてない女優さんには難しいのかな。

画面の作りとか音楽とか、もうすこし重量感がほしいと思わないでもなかった。
日本のドラマにしてはドライな台詞が魅力的。金城一紀は映画『フライ、ダディ、フライ』とドラマ『SP』シリーズの脚本担当だったのか! ならば『BORDER』も見ればよかった。

チームが専門家集団で、ちゃんと頭を使って働いているのでほっとする。なんで臭いで爆弾の中身がわかるのか疑問だが……。新木優子は"綺麗"と"可愛い"の中間くらいで、無駄な笑顔がなく、かといってわざとらしい反抗的態度もなく、捜査員を魅力的に演じている。
西島秀俊はもっとモズモズしいのかと予想したら、意外と温厚風味。それともこれから闇をのぞかせる? またしても石田ゆり子と共演か。ゆり子さん、今度は最終回までピンピンしていてほしい。
ちょんまげのない小栗旬を見るのは久しぶりだが、うまくてかっこよくて手堅い演技である。マンションから飛び降りるシーンは『TAJOMARU』を彷彿させる。
田中哲司は、登場シーンで「結婚していろいろなまっちゃってるのか?」と思わせたが、どうやら大丈夫そうだ。

特捜班の過去の「骨折」が気になる。

『4号警備』スタート

作:宇田学
自分にとってこの人の前作は『ボーダーライン』。若き消防士の成長を中心に、消防の世界に生きる男女の葛藤や世相を描いた秀作だった。今回も出だしはしごく快調。主人公に回し下痢……ヒドい誤変換だ……回し蹴りをやらせたり、カーチェイスで車を壊したり、アクションでもがんばってくれて嬉しいが、NHKがこういう方向にサービス精神を発揮するのはよくあることなのか?

主人公、朝比奈は仕事熱心ながら口の利き方はいかにも今風の若者。真面目なドラマだが息苦しくさせない工夫が、彼の人物造形等等に散見される。

誰もが盲目の広瀬に遠慮する中で、朝比奈だけは本音をぶつけ、最後には広瀬から感謝の言葉を勝ち取る。『ボーダーライン』同様、少々リスキーなネタからも逃げずにドラマを作る姿勢に頭が下がる。

相棒の石丸を演じる北村一輝はなよっとしたしゃべり方で、今後の人物像の掘り下げが気になる。
警備部長を演じるのが片岡鶴太郎。『ボーダーライン』の筧利夫のように、味のある指導者を見せてくれそうだ。

いつも悲劇のヒロイン風の窪田正孝(朝比奈)や木村多江(ガードキーパーズ社長)が、今回は明るかったりおちゃらけたりで新鮮味がある。
HPによれば、第4回のゲストが高橋光臣とな! 現代ドラマでもいい演技をする場を与えられますように。

しばらくは土曜夜7時半から8時45分まで、NHKの良い面だけが出た番組を拝むことができそうだ。
無理に45分かけなくたって、30分でじゅうぶん見ごたえのある話は作れるのだ、とつくづく思わされる。

『この世にたやすい仕事はない』スタート

長たらしいタイトルを「ない」で締めるのが流行ってるのかと思ったら、原作は津村記久子とか。
黒電話やレトロなボンネットバスとパソコンが同時に出てくる、ちょっと不思議で楽し気な大人の童話が始まった。

どの職についても長続きしないヒロインが、カナリアバス総務部の江里口のもとで働きはじめる。江里口はいわゆる切れ者の風貌ではないけれど、どんな仕事もほがらかに巧みにやってのける。いい女優が演じてるなあと思っていたら、エンドテロップで"馬場園梓(アジアン)"……お笑いの人なのか?

木曜の夜に30分連続8回、肩の凝らないエンターテインメントを期待したい。
このスタッフなら、クラフト・エヴィング商會の『じつは、わたくしこういうものです』をドラマ化できそうなのになぁ……1話15分とか20分とかでもいいので、いつの日か是非!

 

『スリル!』

『赤の章』はNHK総合で放送、主人公は中野瞳。『黒の章』はBSプレミアムで放送、主人公は白井真之介。

ハードナッツ!』の続編はどうなってるのか?と思っていたら、似たテイストのポップで楽しいミステリドラマが始まった。作家(蒔田光治、徳尾浩司)とディレクター(河合勇人)が『ハードナッツ!』と同じと知って納得である。

瞳はこの手のドラマでは珍しい、警視庁会計課勤務という設定。詐欺師の娘で手癖が悪く、やたらと外河刑事の警察手帳を失敬しては冴えた推理を披露する。演じる小松菜奈は、フランス映画に出てきそうな小悪魔的な美少女だ。彼女が出てきただけで画面に浮遊感が生まれる。腕の動きがきれいだが、バレエでも習っていたのか? 通話相手にムカつくたびに受話器を睨むのは意識的な演出だと思うが、三谷幸喜が見たらいつかのエッセイみたいに文句を言うだろうか? ともかく、本邦では代わりがいないと思わせる個性派が出てきたことが喜ばしい。

白井弁護士は性悪なのに詰めが甘く何かと窮地に陥る男で、『ダウントン・アビー』のトマスを連想してしまった。山本耕史はアラフォーでは貴重な格調のある時代劇演技ができる人だが、白井役ではわざとらしさを感じさせずにヘンな鼻声を作り、器が小さい男らしくちょこまか動き、ますます貴重な芸達者だと再確認。

このドラマには3人の優秀なコウジが関わっているのだな。

録画消化の時間が取れず2話ばかりたまっているが、どちらも4話で終了してしまうので、早く見るのはかえって惜しい気分だ。内容に合わせて回数が決まるのもNHKドラマのいいところ。

向田邦子新春シリーズ再放送(TBSチャンネル2)

1992~2000年に初回放送された『華燭』、『家族の肖像』、『いとこ同志』、『風を聴く日』、『響子』、『空の羊』、『小鳥のくる日』、『あ・うん』を視聴。

演出は全作、久世光彦。時代設定はすべて昭和十年代なかば。脚本は『響子』と『あ・うん』が筒井ともみ、それ以外はすべて金子成人。『響子』は原作原案が向田+松山巌(『闇のなかの石』)で、他の回とはかなり毛色が違う。正月の9時台に似つかわしくない生臭い演出もあり、秀作ではあるが別枠のほうが納得できるテイストである。これ以外は、主人公の家の主は生前あるいは現在、中級官僚とおぼしき役人、研究者など。当時の日本にあってはかなり上品な部類に入る、山の手の中流家庭を舞台としている。『あ・うん』は他の映像化作品との差別化をはかったのか、いささか悪乗りのおふざけ芝居が鼻についた。『響子』と『あ・うん』以外は懐かしさや明るさを感じさせる小林亜星の音楽で幕を開け、エンディングでは正月らしい小物をあしらった華やいだ映像にクレジットをかぶせる。

レギュラー陣が田中裕子、小林薫加藤治子。三人とも目をむいたり声を荒げたりしなくとも山場を作れる役者で、こんなにうまい人が人気を集めて民放で主演を張っていたなんて、ドラマファンにとって幸福な時代もあったものだ。ヒロインは毎度田中裕子。妙に潔癖に身構えた未亡人、母と妹を何よりも大事にする独身職業婦人、ふつふつと沸き起こる欲望に身を任せる主婦……予想より役柄の幅が広かった。要所要所で、あまり表情を変えなくともひしひしと伝わるものがある。その演技のレベルはイザベル・ユペール並みと言っても過言ではない……と思う。小林薫は世事に疎い学者も、ヤクザなにおいをプンプンさせた石工職人も、ひょうひょうとした落語家も、なんでもござれ。この二人が親子になったり、いとこになったり、不倫相手になったり、全作異なるケミストリーで魅せてくれる。加藤治子は基本的に、しとやかながら胸の奥にわだかまりを抱えた母親役。この手の奥様の陰にこもった怖さを表現できる女優が今いるだろうか? 『響子』では珍しく石屋の女将さんで、荒くれ男たちの上に立つ貫禄を示した。

一番楽しめたのは『空の羊』(1997年)。酔った叔父が酒場で知り合った噺家を連れてくることから、女所帯に騒動が持ち上がる。自分で自分を縛って生きているようなヒロイン(三姉妹の長女で未亡人)が、彼と出会ったことで変わってゆく。小林薫と田中裕子のかけあいは安定のおもしろさ。吃音を直すために西条八十の詩を朗読する三女役の田畑智子も魅力的だ。西島秀俊が作家志望のろくでなしを演じるのも目を惹いた(なぜオープニングクレジットで名前が出ない?)。次女(戸田菜穂)と自由恋愛を謳歌しており、他にも複数の女と関係している。たがいに束縛しない約束だったから、次女が妊娠しようと流産しようと知らん顔というクズっぷりで、この男優は若いころからこういう役が嵌っていたのだなと妙に感心した。このころの戸田菜穂は、きれいでいいお嬢さんに見えるものの、女優としてはこなれていない印象。他の作品と同じく、田中裕子と小林薫はラストで別れ別れとなる。寂しさと爽やかさがあいまったいいエンディングだった。