『忠臣蔵の恋~四十八人目の恋』第2回『縁談』

毎週土曜夜6時10分スタートという編成が、どんな視聴者を想定しているのかよくわからないが、地上波で連続時代劇をやるのはもはやNHKだけなので、また新作ができただけでもありがたい。
吉良邸討ち入り前後のきぬの恋模様と浅野家の動向を、全20話で描くらしい。
原作は、時代小説ファンのあいだでは評価が定まった感のある諸田玲子。スタッフは、時代劇でおなじみの清水一彦D、黛りんたろうDなど。手堅い娯楽作を見せてもらえそうだ。

武井咲は『平清盛』の常盤御前が悪くなかったし、たたずまいも時代劇に合っている。それだけに、驚いたりためらったりといった表情について、もうすこし演技指導があれば、と惜しまれる。ヒロインきぬの運命の人、礒貝十郎左衛門を演じるのが福士誠治。三十代では高橋光臣の次くらいにできる時代劇俳優なので、また準主役が回ってきてよかった。それにしても、なんでこの人大河からお呼びがかからないのか??
浅野内匠頭を演じているのは石橋保かと思ったら、今まで顔しか知らなかったといってもいいアイドルの今井翼だった。しっかり時代劇の演技ができていてびっくり。陽月華はさすがに危なげない演技。皆川猿時が出てきただけで笑ってしまった。三田佳子はもう別格。これからも要所要所で登場してお話を引き締めてくれるのだろう。初回の冒頭、佐藤隆太がずいぶん立派な顔つきになったと思った。

海外の歴史番組

戦争と平和 WAR&PEACE』(NHK総合
トルストイの原作をどんなふうに料理してくれるのか、まだ様子見の段階だ。第1回はともかく平原の戦闘シーンに迫力があったので満足。ロケも衣裳も小道具もそうとう予算がかかっていそうだが、全8話なら息切れせずにやり通せそうだ。イギリスドラマだけあって、陰気なミステリでお目にかかったことのある、あの人この人……キャストではアンナ・パーヴロヴナ役のジリアン・アンダーソンが楽しみだ。ピエールはイメージ通りだが、アンドレイは微妙。一流の声優陣にはもうしわけないが、できれば字幕で見たかった。そうすれば、深みのある声でしゃべったとたんかっこよくなるイギリス男優の魅力を堪能できるのに。リリー・ジェームズには庶民的な愛らしさがある。『シンデレラ』はよかったし、『ダウントン』でイラッとさせられるはねっかえりのお嬢ちゃんを演じる分にはいいのだが、ナターシャじゃないだろー。
主要キャストがどうあれ、BBCの歴史ドラマなので最終回まで視聴予定。

『クイーン・メアリー~愛と欲望の王宮~』(BSプレミアム
宮殿の外も内もゴージャスで目に楽しく、
「国も軍隊も持った花嫁はなかなかいない」
「覚えておけ、フランスの王は申し開きをしない」
といった大人っぽい台詞もある。しかし、BGMが妙に軽いし、真一文字に口を結ぶことができないのか?と言いたくなるほど、若手の表情にしまりがない。イギリスじゃなくてアメリカ臭いなと思っていたら、エンディングにCBSの文字。第1話視聴後、公式HPをチェックしたところ、「メアリー・スチュアートの恋と運命を、壮大なスケールと現代的なアレンジで描いた宮廷ドラマ」の説明があった。第2話を見てもアレンジに乗れなかったら、そこで視聴打ち切り。

『バーバリアンズ・ライジング~ローマ帝国に反逆した戦士たち~』(ヒストリーチャンネル
米国A&E製作。各回1時間弱、全8回でローマ帝国軍に苦戦を強いた反逆者9人を描くドキュメンタリー・ドラマ。インタビュー・コーナーに歴史学者が登場するのは『英雄たちの選択』(BSプレミアム)と同じ。ちがうのは、(極私的にまったくお呼びでない)心理学者が出てこないこと、退役将校や元保安官や公民権運動の元闘士が登場して戦略について語ること。
録画したうち第1回『ハンニバル』、第2回『ウィリアトゥス』を見ただけだが、娯楽色のある教養番組として出色の出来と言いたい。戦闘の場所、時間、死傷者数、武器、勝敗を分けた理由などの説明も丁寧。カンナエの戦い(高校で習ったはずだが、ザル脳には初耳の戦い)の死者が、ベトナム戦争のアメリカ兵の死者を上回ったとは驚き。放送開始時に「残酷な場面があります」とテロップが出るので、食事しながら見るようなヘマをしなくてすんだ。

『戦闘史:ブーディカ女王』(ヒストリーチャンネル
米国A&E製作。『バーバリアンズ・ライジング』の第5回が『復讐の女王 ブーディカ』だが、これはそのシリーズとは別の単発作品。ドラマと専門家インタビューが混ざる構成は同じ。ブリテンのバーバリアンズを率いて、一度はローマ軍に苦杯をなめさせたイケニの女王ブーディカを描く。二度目の戦いではブリテンが大敗するが、彼女が捕虜になった記録はなく、誇り高く服毒自殺を遂げたのではないかと言われている。ドラマでブーディカを演じた女優がむっちゃかっこいいのだが、名前がわからず。イギリスでは、自由のために戦った戦士として今も尊敬されているという。迫害に屈せず戦う者を讃える番組作りはいい意味でアメリカ的。『クイーン・メアリー』みたいのより、この手の番組のほうがあの国には向いている。

『真田丸』第38回『昌幸』

重要人物が四人退場。前回は関が原の敗者の悲哀を存分に描き、今回は信繁の起死回生の道がどんどん細くなっていくようすを描いている。上杉景勝はひきつづき存命だが、会津百二十万石から上杉三十万石まで減封処分。もはや頼れる大名ではなくなってしまう。

板部岡江雪斎を侮るな。お主のまなざしの奥に燻っている熾火が見える。いずれ、たれかがその火を求めに来よう。楽しみにしておるぞ、真田左衛門佐」
二十年前、三十年前の大河に出てきたとしても違和感のない味わい深い台詞を残し、江雪斎が退場した。これは信繁にとって励みとなる予言のようでもあり――茶々の「そなたとは同じ日に死ぬ」のような残酷な響きはないにせよ――のちの行動を縛る呪いの言葉のようでもある。

ほかの重要な登場人物三人は、死をもって退場した。
若いころは苦労も多かったろうが、三人のうち一番幸せな人生を送ったのは本多忠勝である。槍働きで主君家康の大望成就を助け、兵としての用がなくなってからはちょくちょく娘の嫁入り先を訪ねて稲の子もこうの子も分け隔てなくかわいがり、小刀を持つ手元が狂ったのをきっかけに潔く暇乞いをする。
清正は、危険な若きカリスマのもとにはべる危険な邪魔者ということで、徳川の命を受けた半蔵に暗殺される。三成の別れの言葉に意外性がなく、少々肩透かしだ。
主人公の父というのは、たいていの大河で2~6月には退場するものだが、今年は全ストーリーの四分の三の長きにわたり生き延びた。三度の飯よりはかりごとと戦が好きで、しかし大局を見る大戦略家にはなれなかった"国衆あがり"の与力大名、真田昌幸九度山で老いて死ぬ。

山西惇は北条に忠義を尽くした名参謀を好演。これだけできるのだから、他の作品でも重臣、重役などやってもらいたい。
藤岡弘、は、終始チャーミングなド―ベルマンだった。曲者の知将、正信と対照的な一本気の武将で、どちらが欠けても家康の栄達はなかっただろうと思わせる。
新井浩文の初大河が久しぶりのハイレベルな大河でよかった。とは言え、短時間の出演でも強烈な印象を残した『信長協奏曲』の斎藤義龍役にくらべると少々食い足りなかったのも事実。来年以降、おもしろい大河が現れるかどうかおおいに疑問だが、それが実現した暁には主人公の前に立ちはだかる強敵の役でぜひ再登板を。
草刈正雄は、野性味と茶目っ気と(『真田太平記』の丹波哲郎にくらべるとかなり)軽度の助平さを徹頭徹尾、魅力的に体現。身近にいたら迷惑千万な男だが、視聴者の立場なら「しょ~~がないなぁ、でもそこがいい」と楽しめるパーソナリティーであった。

家康以外にもはや大物はゼロか、と思わせたところで秀頼登場! 芸達者な中高年男優がそろったドラマに出てきて、顔の造形だけに頼ることなくカリスマをにじませる中川大志は立派。が、金粉が舞ってきそうな「秀吉のテーマ」(?)が流れると、はやくも不吉なムードが漂う。秀吉の卑しさや冷たさはなく、知性にも胆力にも恵まれていそうな代わり、徳川が天下を握った状態でどうしたら生き延びられるかわかっていなさそうなところが哀れである。
真田太平記』では、同時代の才色兼備役女優の筆頭、竹下景子が小野お通を演じた。それにくらべると、今回登場した八木亜希子はなんとも心もとない。来週からしっかりやってくれるかな?
一部で秀頼の実父の噂もあった大野治長を演じるのが今井朋彦かぁ……陰険というより消極路線で行くようだが、三谷がどんな最期を描くのか興味津々。

あまり視聴者に愛されていない感のある秀忠だが、「安房守の話はもうするな。あいつはもう死んだ」には、暗愚ではない次期指導者の片りんが表れている。上田の意趣返しも込めているのかもしれないが、昌幸を山から出したら碌なことをしないと見越すのは賢い証拠。むしろ、「もう許してもいいのでは」と言い出す正信のほうが、知恵者にしては判断が甘い。

 

『必殺仕事人2016』

昨今地上波では貴重な痛快娯楽時代劇。スタッフ、キャストとも申し分なく、石原興の演出はあいかわらず冴えているが、跡を継ぐ若手演出家が育っているのかとても心配だ。
結城はレギュラーだから死なない、なんて予想は甘いかなと思っていたら……甘かった。
安田顕はチャンバラできるんだな。悪役やってるときのヤスケンの死んだ目を見ていると、『磯部磯兵衛物語』を実写化した暁には"犬"役をやっていただきたいと思ってしまう。
経師屋の涼次が錐で心臓を突く場面。レントゲンの左下に出る文字は、処した者の名前と月日を示すらしいととちゅうで気がついた。YSK160925は「弥助2016年9月25日」。録画を消してしまったのでうろ覚えだが、最初の殺しのレントゲンはたしかHRI160918。2016年9月18日の的は「堀井」とか「風来坊」とかだったのか。

『夏目漱石の妻』第1回『夢見る夫婦』

土曜ドラマをつまらなくするのは"仕事の邪魔しに出てくる妻"だし、『シン・ゴジラ』がおもしろかったのは「ゴジラとあたしとどっちが大事なのよっ!」みたいなことを言う女房族が出てこなかったからなのだが、池端俊策が書く話にかぎってはタイトルに「妻」がついても安心だ。

鏡子が楽しそうにしているシーンもつまづき連続シーンのほとんども、軽やかでモダンソナタを添えて温かく演出している。清水靖晃のメロディーがどこで流れたのかわからなかった。リピートせねば。
そこまで登場人物をアップにしなくても、と思うこともあったが、動物的なヒロインの撮り方としてはおそらくあれがベストなのだ。骨太格調路線ならこの人! の柴田岳志が演出担当。野外シーンののびやかさや緑の美しさが印象的だ。
貴族院書記官長ともなれば立派なお屋敷に暮らしていること、おおぜいの使用人をかかえていることがちゃんと描かれていてほっとする。いいとこのお嬢さんがお嫁入りするときに、疑似家族のような女中を連れて行くのも、たんなる風俗紹介ではなく、漱石から見た「温かい中根家」の象徴となっている。
大量の家電製品と少ない子供に囲まれた平成の主婦より、子なしでも女中を一人置いただけの明治の主婦のほうが多忙だったはず。それでもワイドショーもスマホもない時代、さびしくて夫の職場を訪ねてしまう鏡子がかわいいというかなんというか……家族愛と無縁な漱石はまっとうに対処できない行動なのだった。
着物の良し悪しはまったくわからないが、鏡子がとっかえひっかえする着物本体だけでなく、半襟も目に楽しいものばかりだ。

漱石の偏屈ぶりも夫人のヒステリーも原因が解明されたのかどうか知らない。が、本作では、夫については生育環境、夫人については流産で説明している。夫人の入水騒ぎのあと、心配だから夜は手首を紐でつないで寝たエピソードはきっとやるだろうと予想していたのだが、そうではなく意外と甘い漱石の心情吐露でまとめていた。傷心の妻に語りかけているようでもあり、モノローグを語っているようでもあり、と感じさせるのが長谷川博己の真骨頂か。去年の主演男優賞佐藤健(『天皇の料理番』)か玉山鉄二(『マッサン』、『誤断』)かという印象だったが、今年はハセヒロ・イヤーになりそうだ。未見の映画でも活躍したそうだし、『漱石』前夜はチャオのくせに倉木のごとく「本当の真実」を求めていたし、本作では最終回まで快調に飛ばしそうな予感しかない。

『誘拐ミステリー超傑作 法月綸太郎 一の悲劇』

フジだし時間の無駄かもしれないと思いながらいちおう録画。
まじめに演出せざるを得ない児童誘拐と、笑いを取るための、かっぷくの良いミステリマニア(?)な家政婦さんの各種口真似やモロ師岡の娘がだんだん父親と同じ顔になってきちゃったネタを、2時間ドラマで両立させるのが苦しかった印象だ。平板な演出を補うためにのべつBGMが流れていた。たぶん、文章のみの世界なら楽しめるのだろうな。ということで、未読でも原作にマイナスのイメージを持つことはなかった。
主人公が犯人の自殺を止められない結末は、最近のドラマ作りにしては英断の部類?

映画三昧

『ロイヤル・ナイト』(監督:ジュリアン・ジャロルド)
エリザベスに思慮がなさすぎ、マーガレットに品がなさすぎで、極私的にはちょっと残念な『ローマの休日』。
『ローマ』のオマージュ探しの楽しみは提供している。自分はギターネタしかわからず。ロンドンの地理にくわしかったら、もうすこしのめりこめたかもしれない。
監督が大好物『心理探偵フィッツ』を演出したことがあると知って驚愕。
お懐かしや『新米刑事モース~オックスフォード事件簿~』のサーズデイ警部補とジェイクス巡査部長に再会できた。ロジャー・アラムは懐の深い娼館の親父がはまってたいそう魅力的。主演のサラ・ドガンは凛とした魅力あり。

レジェンド 狂気の美学』(監督:ブライアン・ヘルゲランド
ブリティッシュ・マフィア映画ということ以外なんの予備知識もなしに見たので、純粋にストーリーを楽しめた。監督が『L.A.コンフィデンシャル』を撮った人ならおもしろくて当たり前か。
ギャングの話なのにナレーションが女性キャラ……に意表を突かれ、それなら切り口がふつうとは違うのかと思いきや、スピード感と迫力のある王道の抗争ドラマであった。最後までよけいなことを考えずに見た洋画はひさしぶりだ。
凶悪な双子が仕切る街がネタのイギリスドラマなら何度か見たことがある。すべてクレイ兄弟を参考にしたものだったのか……と今頃になって気づく。
ギャング映画ファンでなくとも、60年代のアート、ファッション、音楽に興味がある人ならかなり楽しめるはず。
一人二役の主演が『マッドマックスFR』のトム・ハーディと気づかず。イギリスの俳優界はあいかわらず優秀な人材を輩出している。単発ドラマ『夜の来訪者』でお気に入りに加わったデヴィッド・シューリスが金庫番の役で活躍していた。『フィッツ』で好演したがたまにしかお目にかかれないクリストファー・エクルストンが、今まで見たのとはちがういい味を出していた。マッド役が『キングスマン』のクロン・エガートンなのはひと目でわかった。共演者たちみたいに渋いおじさんに成長できるかな~? なんて思ってしまったが、この人しっかり鍛えるRADAご出身だそうな。

『オーバー・フェンス』(監督:山下敦弘
鳥の使い方がシュールで印象的。魚の使い方に笑った。
未読の作家、佐藤泰志の映画化は『そこのみにて光り輝く』も『海炭市叙景』も傑作なので、本作にも期待して見に行った。撮影(近藤龍人)や照明(藤井勇)の力で、本州とはちがう函館の冷涼な気候や、街並みや人間関係のちょっとだらだらした感じが伝わってきただけでも、いい映画だと思う。「その瞬間を生きている人間たちの映画にしたい」とは監督の言。カタストロフで終わるか、それとも函館シリーズの前二作のように終わるのか……とちゅう何度も予想を変えたが、さわやかな絵で幕を閉じた。フェンスを越えられない話なのだろうというネガティブな予想ははずれた。
しょっぱなから聡の声が耳障りで、ピークの荒れっぷりには心底辟易。オダギリジョーが翻弄されるだけの役じゃあないのでは?と思いはじめたあたりで切れ気味の発言もあり、なのに聡を殴ることもなかったのは意外だ。
映画のにおいがするキャストに囲まれても、まったく浮かない優香はほんとにいい女優になった。
製作の永田守があの永田雅一の孫で、親子三代同業者だったとは! 企画は『そこのみ』と同じく菅原和博。
これからも映画を愛する人々が、佐藤文学をフィルムに撮ってくれそうだ。